屯所に来てから数週間がたった。
みんなと仲良くなった。
何でかよく分からないけどなんとなく寂しい気がした。







階段の徒競争







ちゃんおはよう!」
「よっ!ちゃん。今日もいい天気だね!!」
ちゃん―。」
みんなの声、笑顔。
つられて私も笑顔を返す。少し引きつった笑み、だけど。
別にわざとそう言う顔をしている訳ではなくてなんだか最近うまく笑えないんだ。笑おうとすればするほど胸がずきずき痛んだ。
なんだろう、これ………?


。」
ズキン。(ほら、まただ…)


「…おはよう、総悟。」
胸が痛んでも私は笑顔で返事をする。気付かれたくなかった。
彼の隣へ歩み寄り、真横で静止をする。ここが私の定位置だった
「…ちょっと来なせェ。」
総悟は目を合わせずにそう言った。















「ここは…?」
「見て分かるだろィ?神社でさァ。」
確かにそこは神社だった。しかも結構立派な。場所は屯所のちょうど裏側だ…近くにこんな所があるなんて知らなかった。
というか私、今日はじめて屯所から出たかも…。
「人ほとんど来ねぇから絶好の穴場なんでさァ。」
「穴場?なんの?」
「サボりの。」
「……………。」
なんとなくそんな気がしたけど即答されるとそれはそれで悲しいものがある…土方さんが聞いたら怒るだろうな。
「土方の野郎には言うなよ。」
「…言わないよ。」
心を読まれた気がした。


、グリコ知ってますかィ?」
「グリコ…ってあのじゃんけんして階段登っていく遊びのこと?」
「そうでさァ。」
総悟の前には本堂へと続く長い長い階段。ま、まさか……。
「一丁やりやしょう。」















最初はグー、じゃんけんホイ!
まるで小さな子供が遊んでいるかのような声が響く。だけど実際いるのは20歳前の男と幽霊で通りすがる人がいたらきっとびっくりするだろうな…。生憎誰も通りすがらなかったけど。
始めてから5分くらい経つ。今勝っているのは私で総悟よりも6段高い所に立っていた。気を抜いてはいけない。階段はまだまだ残っているし6段ならすぐに追い抜かれてしまうから。ただの遊びに二人とも必死だった。
そして先に勝負を仕掛けてきたのは総悟だった。
「パー…あ、総悟の勝ちだ。」
そう言った瞬間、ギラリと目を輝かせニヤリと曲げた口で
「チ・イ・ズ・フ・ォ・ン・デ・ュ」
と言うとタンタンと音をたてて総悟は私の隣をすり抜けていった。
「えぇぇぇぇぇ!!!チョコレートはどうしたの?!間違ってるよ総悟!!!チョキはチョコレートだよ!!」
「なんでィ?ちゃんと"チ"から始まってるだろィ。」
「いやでも一般的にここはチョコレートでしょ。てかさっきまでチョコレートだったじゃん!!」
「固定概念はよくないですぜィ。ここからが本当のグリコでさァ。」
どんなに文句を言っても総悟はひょいひょいと交わしていき、いつまでもニヤニヤ笑いをやめなかった。今なら土方さんの気持ちがよく分かる気がします…。
(くっそー……)
「もういい!やるよっ!!最初はグー、じゃんけんホイ!!」
私はグー、総悟はチョキ。ふふふ、今度は私の番だ。覚悟沖田総悟!!!
「グ・レ・エ・ト・バ・リ・ア・リ・イ・フ」
私はするりと総悟の横を通り過ぎるとさらに上へ登った。総悟はポカンとしている…ふふふ、目には目を、歯には歯を作戦成功だ!!
「…なんでィ、昏干支張亜理医負って。」
「(どんな変換機能?)グレートバリアリーフだよ。簡単にいえばサンゴ礁のこと。」
、よく考えろぃ。"グー"はグリコで3文字ですぜィ?10文字は増えすぎだろィ。」
「あれー?でもちゃんと"グ"から始まってるからいいんだよねー?」
今度は私がニヤニヤ笑いをする番だった。
「…へェ…。」
「ふふふ。」
バチバチバチバチ。
乾いた笑みを浮かべた二人の間に火花が散った。



「パプアニューギニア」
「チョコレートケーキ」
「チェックアウト」
「グルメリポーター」
「パイナップルジュース」
「ぐ、グルタミン酸…!!」
「チャー○ーとチョコレーと工場」
そう言うと総悟はタンッと大きな音をたてて頂上へと足をつけた。
さ、最後のは反則的に長いでしょ…。
「俺の勝ち―の負け――!!」
嬉しそうに笑う総悟に無性に腹が立った。たかが遊びなのになんだこの悔しさは…!!
「大体が俺に勝とうとするなんて10年早いんでさァ。」
「…うぅ…。」



勝利に満足したのか、総悟はちょいちょいと私を手招く。
私は残りの階段を上って総悟の隣に行き、二人同時に腰を下ろした。
「元気になりやしたかィ?」
「へっ?」
「最近元気なかっただろィ。」
びっくりした、総悟は気付いてたんだ。私が必死に隠そうとしていた努力も総悟にはまったく通用していなかったらしい。
そしてこの階段での戦いは総悟的励まし方だったということに私はようやく気付いた。
膝に顔を埋めた。光が遮断されて暗闇が私を支配する。

「…何で私は、死んでるのかな…?」
みんなと、総悟と一緒にいて、毎日が楽しくて。
生きていた時もそれなりに楽しい思いをしていたのかもしれない。だけど私にはその記憶がないから。今がすべてなんだよ。全てなのに…。
「生きてみんなと出会いたかったよ…!!!」
もし生きていたら。ご飯だって一緒に食べれるし仕事の手伝いだってできる。食事作ったり洗濯物干したり、隣にいる総悟の手を握ることだって、できるんだ。
「…出会えただけ、よかったじゃねぇか。」
ポツリとつぶやいた声に私は顔を上げた。
「お前は確かに今死んでる。だけどちゃんとここにいまさァ。本当なら出会うことすらできなかったんですぜ。…十分じゃねェかィ。」
きょとん、そんな顔で総悟を見るとその顔は少し哀しげで。でも瞬きをした後にみた顔はいつもの顔に戻っていた。



「少なくとも、俺の中にお前は生きてるってことでさァ。」




胸の痛みがすっとどこかへ飛んで行った。

















++++++++++++++++++
久しぶりの更新。
グリコはグレートバリアリーフを入れたかっただけです(え
いやでも燃えますよねグリコ…流石に文字は変換しませんでしたけど。

次からは少しずつ話が動いて行く…予定…。

ここまで読んで下さりありがとうございます。

2009.1.30