ふと思いついたように足を進めた。
行きたいと思ってたけどずっと行きそびれていた場所。
今日こそはと足を踏み込んだ。







蔭を見る







「はああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
パァン!!
大きなその音と叫び声に片が跳ねた。
すっごい迫力…。剣道ってこんななんだ。
もと静かでこう…スパって感じかと思ってたんだけど。
「どんな妄想でィ」
「も、妄想じゃないよ!想像だよ!!!」
「どこが違うんでィ。」
「……。」
「…何でィ?」
「そ、総悟!?何で人の心読んでんの??」
「あんた人じゃなくて幽霊だろ。」
「この際そんなのどっちでもいいよ!!!」
あれか、総悟は読心術でも習得してるのだろうか。幽霊限定の。
「いや、が分かりやすいだけでさァ。」
顔にいろいろ書いてありますぜと言いながら自分の頬をムニムニ突く総悟は何となくいらァっとくるような笑えるような…。
「で、総悟は稽古しなくていいの?」
「俺は師範代でさァ。敬え。」
「絶対嫌だ」
「ケチくせェなぁ。」
「はいはい、師範代様はさっさと門下生の指導に行くべきなんじゃないですか?」
「大丈夫でさァ。サボったらキツクお仕置きするんで。」
「……」
嫌な予感のするそのお仕置きについては触れないでいよう。もどうですかィとか言われかねないし。
とりあえず。
「サボってる師範代にお仕置きはないの?」
「ないでさぁ」
(差別だっ!!)
こんな師範代でみんなやる気出るのかな。私だったら無理だけどさすがだ、集中力すごいんだな…。ただ総悟の「お仕置き」が怖いだけかもしれないけど。

結局その日一日私はずっと道場にいたけど総悟が剣を振る姿は一度も見ることができなかった。山崎さんが前「沖田さんはああ見えて真選組随一の腕前なんですよ」とか言ってたからちょっと楽しみにしてたんだけどな。
その日から私は暇さえあれば道場に行って皆の稽古を見ていた。総悟は隅でボケっとしているか私の隣で喋っているだけだった。










夜は暇だ。みんな寝てるし本も読めないしテレビだって見れないからぶっちゃけやることがない。そしてそのうち屋根で私は過ごすようになった。別に高い所が好きとかそう言うことではなくて。ただそこで朝日を見たかったから。すごく綺麗なそれを見ると今日一日も頑張るぞ思えるのだ。それは今日も例外ではなくていつものように屋根でボケっとしていた。最初は静かなこの雰囲気に怯えていたけど今ではなくてなならない貴重な時間となっている。
そんな時だった。
真選組の起床時間は6時。そして今は3時。こんな早い時間に歩いている人がいた。珍しいな、誰だろう…。屋根からゆっくり下りていく。ついて行くことにした。
まだ日の昇らない暗い中だったので誰なのかいまいちよく分からない。そんな人が向かったところは道場だった。
(…けい、こ?)
明かりをつけたのか建物の隙間から光が漏れていた。すごいな、お昼にもすごくたくさん稽古するのにまだやってる人いるんだ…。本来ならこういうのって覗いちゃいけないんだろうけど……ちょっと見るだけ…誰なのか、見るだけ。見つからないようにこっそりと滑り込んだ。









お昼の道場とは違う静かな、でもどこか緊張感がある雰囲気が漂っている。お昼の道場もいいけどこういうのも好きだな、そう思った。何でなのかはよく分かんないけど(と言うか考えたことない…好きなもんは好きなんだよ!)その中でブンブンと竹刀の唸る音だけがした。ゆっくりこっそりひっそりと、そんな三拍子を保って見た者は、
「……そ、総悟…」
予想外だった。
いつもお茶らけた彼がこんな顔をしているなんて。汗を流してそれが散るくらい一生懸命竹刀をふっている姿なんて想像できる訳なかった。でも総悟だって一つの隊を賄っている隊長だもんね…。お茶らけていたって結局最後にはちゃんと締めてる。見回りだって書類云々だって。


「何見てやがんでィ。……趣味悪ィなァ。」







「……う、うわぁ!!!」
心臓が止まるかと思った。…心臓ないけど。
とにかくいつの間にか総悟は隣に座って怪訝そうにこっちを見ていた。
「え、ええ?!さっきまであそこにいたのに…!!!」
指さす距離は5mほど離れた場所。そんなすぐに来れるような距離じゃない。
の妄想時間が長いだけでィ。」
「も、妄想なんてしてないし…。」
なんとなく決まりが悪くて目を逸らす。その…色々と、ね。
「あー…毎朝やってんの?」
「(話逸らしやがった)…別に。たまに気が向いたらでさァ。」
「私、気付かなかった。」
「いつも別の道通ってたからねィ。今日は便所行った後だったからたまたま見られたんでさァ。」
「ふーん……で、なんで夜中に鍛錬するの?」
これが一番気になることだった。何時でも何処でも寝てるのに何でわざわざ夜中に起きるんだろう。逆に考えたらこうやって夜中に起きてるからお昼に寝てるのかな?
「…俺が答えると思ってんのかィ?」
「え…ダメ?」
「駄目でィ。」
「いいじゃん!」
「いやでィ」
「(しぶとい…)そこを何とか!!」
「…何でそんなにしつこいんでさァ。」
「だって知りたいもん。」
ずっと遠くを見ていた総悟の目が驚いたようにこちらを向いた。

「私は総悟のことが知りたいよ。」
自分のことなんてさっぱり分かんない。だからせめてすぐ隣にいる彼のことは、彼のことだけでも知りたかった。何もしてあげられない触れることだってできない。だけど、だから力になりたい。たとえそれが彼の鋭い目が顔が和らぐくらいになるまで話を聞くことだけだとしても。今の自分にできることをやっていきたかった。
「…大したことじゃねェぜ。」
総悟は観念したようにため息をついた。
「うん。」
「………昼間だと稽古できないんでさァ。俺ァ強いから。」
それは自画自賛の言葉なんかじゃない。貶しの言葉だった。
総悟は強い。みんな本人に直接言わないけど(否、もしかしたら言ってるのかもしれないけど)尊敬され憧れの的となっている。そして同時に恐れられていた。年上だろうが何であろうが傷一つ負うことなく倒していく彼に畏怖してしまう人だっている。総悟は気付いていた。その両方に、だ。だからこそ剣を振らないようになるべく誰でも使えるバズーカを用いたり一緒に稽古しなかったり。考えてみれば当たり前のこと。でもきっと誰も考えていないこと。きっとそれでいいと彼自身も思っていたから。
「何考えてるんでィ。」
「あ……。」
総悟が顔を覗き込んできた。死んでてよかった。でないときっと泣いていたから。
が何考えてたかなんてしらねェけどあんま考えすぎんな。俺ァ寝る。」
竹刀をしまって背を向ける。
待って、もう少しだけ一緒にいたいよ…そんなこと言える訳もなくでも何か言わないとスッキリしなくて考えなしに口を開いた。
「ま、また見に来てもいい?」
総悟の肩が揺れた、気がした。一瞬だったからよく分かんないけど。





「好きにしろィ。」


その言葉がすべてを物語っている気がした。










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…暴走しました。
当初はちょっと甘い感じって思ってたのに…
シリアスになる予定ではなかったのに。(しかも所々かなり甘い…
しかも長いし在り来たりだし…。
便所と言うのにすごく違和感があります。私がですが;
トイレ……。総悟ならどちらでもいけそうでちょっと困りました。
というかもしかしてこの時代は厠なのか…?

とにかく、ここまで読んで下さりありがとうございました!

2009.5.30