何なんでィ一体…。







白烏(しろがらす(が啼く日







断言できる。昨日(正しく言えば今日の朝)のは絶対どこかおかしかった。
なんか変なもんでも食ったのかも思ってしばらく考えた後にそう言えばあいつは幽霊だったと思い直した。では悪霊から良い霊になったとか。考えるだけで笑えてきた。あいつが悪霊だったら今頃一緒に土方さんをやっつけているのになァ。
あくびが出そうな口に大盛りのご飯が入った茶碗を掻き立てた。今日は午後から見回りだからそれまで寝ることにしよう。今朝はいろいろ考えてたら結局少ししか寝れなかった。それもこれも全部のせいでィ。
こっちの気も知らないで山崎と話しているに胃がむかむかするのを感じる。それに少し違和感を覚えた。これはなんだ…?が食事中山崎と話すことなんでよくあることだ。早朝のやり取りがあったからってなんだ。別に関係ないじゃねェか。なのになんでこんなにイライラするんだ?
本当に今日は分からないことだらけだ。
「おい総悟。」
「…なんでさァ。」
隣から聞こえた声にウザったいと思いながらも返事をする。
「お前今日午後から見廻りだぞ、分かってんだろうなサボんなよコノヤロー。」
いきなり何を言い出すかと思えば土方さんはそんなことを言うためだけに俺を呼んだのだろうか。全く嫌になっちまうぜ。
「いつから土方さんは俺の母ちゃんになったんでさァ。嫌だなァこれだから年はとりたくないぜ。」
「ふだんのお前の行動をよ〜く考えろぉぉぉぉ!!!」
「へーへー。ちゃんと団子食べてきまさァ。」
適当にかわしながらわざとらしく立ち上がり食べ終わった食器を下げていく。今日はどこで昼寝しよう。
「食べんな!!!!!おい総悟!」
しつこいな…そう思いながらも仕方なく振り返ると土方さんは真剣な顔をしていてつい足まで止めてしまった。
「……あいつはやめとけ。」
とくんと、何かが鳴った。


「何のことでさァ?」


「…いや、何でもねェよ。」
もう行け、そう言う土方さんに再び背を向けて歩き出した。
…あいつって誰だ?やめとけって何を?
警告音が胸の奥で鳴り響いていた。










寝てはすぐ起きて、起きてはすぐ寝て…そんなスッキリしない昼寝をしている内にいつの間にか日は高くなってそろそろ見回りの時間かと重たい腰を上げた。
今日は何処へ行こうか。前行ったのは結構おいしいみたらし団子があったけどあそこは値段も張るからあんまり行きたくねェな。そういえば新しい店ができたと誰かが言っていた気がする…今日はそこに行ってみるか。
そんなことを考えながら歩いているとあいつを見つけた。

「…何してんでィ」
何で声をかけたのか分からない。ただ塀の上でボケっと空を見上げているを見てなんだか消えてしまいそうな気がして柄にもなく少しだけ焦った。
「いや、暇だったから…空がきれいだなぁって見てた。」
「年寄りくせェ」
「う、うるさいな!!だって他にすることないんだもん!!!」
プイっとそっぽを向かれた。そう言えばこいつ何もできないんだよな。物には触れねぇから本読んだり稽古したりもできねェ。以前他の隊士にテレビをつけてもらってみてたけど自分でチャンネル換えることさえできやしねェから詰まんなさそうに見ていた。なのにこいつは毎日笑ってて。何がそんなに楽しいんだ何がそんなにうれしいんだよ。
「…暇ですかィ?」
「へ?そりゃ、まぁ…暇だけど。」
「じゃ、一緒に行きやすかい?」
「行くってどこに?」
「決まってるだろィ。見廻りでさァ。」
気まぐれにそう言ってみた…否、正しく言うとこのモヤモヤした気持に答えを出すためにはとりあえずこいつを観察するのが一番。
そう思ったからだ。












なんだかよく分からないけど総悟に連れられて私は始めて江戸の人ごみの中を浮いていた。(最初は歩いてたんだけどあまりの人の多さに人をすり抜けなきゃいけなくて…なんだかあまりいい気分じゃないしね)
総悟は何もないようにすたすた歩いていく。とりあえずついてきたけど何を企んでいるのかさっぱり読めない。だけど初めて見る景色や人ごみに少しだけ心が躍った。
「ねぇ総悟!あのでっかいの何?」
「あァ?あれはターミナルでさァ」
「あれがターミナルかぁ…大きいね。」
「あそこから宇宙に行くんですぜ。」
「へぇ…なんだかすごいね。」
イマイチ実感が湧かなくて曖昧に返事をする。というか本当に色々ありすぎて目が回りそう。初めて見るという印象が強いから生きている時に江戸にいなかったのかな?それとも唯忘れているだけなのかな?どちらにしてもとにかく凄い。
「ところで総悟はどこに向かってるの?」
「団子屋。」
ん、あれ?今確か見廻りのはずじゃ…。
「ま、まさかサボり?!」
「何ってんでィ。立派な仕事でさァ。」
どこがだ!!!!
「旨い団子屋の周りには危険な輩が集まってくる…といいなァ」
「ただの願望じゃない…全くもう。」
土方さんがいつもため息をついているのがよく分かる気がする。屯所以外の所でも総悟ってこんななんだ。
「…ま、いっか。」
いくら言っても総悟が行くのをやめることはないだろうし何より私は別に真選組隊士って訳じゃない。それよりも折角江戸の街に来たんだし色々見てみたい。それには総悟について行くのがいいと思うし。
そう思っているとピタリと総悟が足を止めた。
「…どうかしたの?」
そう言えばさっきから黙ってるし、何だか様子がおかしい。不思議に思って顔を覗いてみるとほんの少しだけ難しそうな表情をしていた。私何か変なこと言ったかな?
、お前ここに居ろ。」
「へ?」
そう言うなり早足で去っていく彼の後姿を私は呆然と見ることしかできなかった。










3人、いや5人か?
旨い団子屋の前に来るなんてどういう神経してんでィ。小道に入って人がいないことを確認する。を置いてきたのが少し心残りだが霊体だし誰にも見えねェからいいだろ。それにあいつには、
「真選組隊長、沖田総悟だな?」
こんな血生臭いところ、見せたくなかった。

「…だったら何でィ?」
予想通り、5人の人物が自分を取り囲んで立っていた。全員腰に刀をさしていてこれでもかという感じに攘夷志士であることを主張している。
「覚悟ぉぉぉぉぉおお!!」
話噛み合わねェし。俺はなんだって聞いたのにいきなり覚悟―!てないだろ。そう思いながら鞘から刀を抜いた。
たかが5人で挑んでくるなんて命知らずだなァ。さっさと終わらせての所に戻らねェと。そんなことを思いながら敵の喉元に刀を向けた時だった。

「総悟?」

聞こえた声に背筋が凍りそうになった。思わず切っ先の方向をかえながら敵をかわす。
あの馬鹿!待っとけって言ったのに何で来るんでィ!!声の主はどうやら後ろにいるようでとりあえず前にいる二人を蹴り倒した。
「ひゃっ!!」
その声に急いでの方へ向くとさっき俺が交わした奴がそのままの方へ突っ込んで行っていた。
(させるか、よっ!!!!)
左右から斬りかかってきた二人を交わして走り出す。そしてに迫っていた敵を峰打ちで倒した。そこでやっと一息つく。残りは二人。
「くそ……覚えてろよ!!」
さっと身を翻して去っていく。今なら追いつけるけどどうも追う気分になれなくてそのまま放っておくことにした。
それよりも。
「…何で来たんでィ。」
「ご…ごめんなさい。」
縮こまって謝るを一瞥した。
とりあえず倒れている3人から刀を奪い手錠をつける。ポケットから携帯を取り出すと電話帳から『マヨラ―』という文字を探して電話をかけ経緯だけ伝えて切った。数分すれば回収しに誰か来るだろ。
「…でもさ、守ってくれたのに悪いんだけど…私霊だから…大丈夫だったのに。」
ポツリと弱い反抗が聞こえた。たぶんあいつなりに俺を気遣ってるんだと思うけどな。
「……知ってらァそんなこと。」
知ってる、全部知ってる。それでもお前は怖かったんだろ、だからそんなに震えてるんだろ。
そういう変に出しゃばりな所がどうしようもなくて放っておけなくて。

「それでも俺ァ守りたかったんでィ」

ポツリと呟いた一言にはっとした。…何言ってんだ?
気付けば体が勝手に動いてあいつの前に立っていた。
気付けば守りたいと思っていた。言っていた。
気付けばが隣にいることが当たり前になっていて。
「総悟。」

気付けばそう呼ばれることに喜びを感じていた。

「ありがとう。」


゛……あいつはやめとけ。″


今朝土方コノヤローに言われた言葉が蘇る。
その意味がムカつくことにやっと今理解できた。
「さて、団子でも食いに行くかィ」
「え…うん!」




厄介なことになった。
自分を嘲笑いたい気分だ。
よりによってなんで…こいつなんだ。



気付けば俺はに惚れていた。
















+++++++++++++++
長いけど切るに切れなかったのでそのまま…。
戦闘は難しいですね!
うまくまとまらなくて四苦八苦でした。
沖田君の気持ちはうまくまとまったみたいですが。
どうなる事やら(まだ続き考えてない人
タイトルの白烏(しろがらす)というのは羽が白い烏のことでつまりあり得ないことのたとえらしいです。
沖田君の気持ちを表した言葉かなぁと思って。
あと補足説明です。ヒロインは真選組以外の人には見えないという設定です。
入れ忘れたらもう入れる箇所がなかったので…すいません;

ではここまで読んで下さりありがとうございました。

2009.8.26