「仕事?」
「はい……」
私の言葉に土方さんの頭の上にハテナマークが浮かんだのが見えた。







WORK TASK JOB







先日総悟と見廻りに行った。そこで攘夷志士に襲われて(正確にいえば襲われたのは総悟だけど)あれからいろいろ考えた。
私は幽霊だし触ることだってできない何もできない。でもみんなのために少しでもいいから何かやりたいんだ。今までもそう思うことは何度かあったけど今ほど強く思ったことはない。こんな私だけど一つくらいみんなのために何かできるはず!そう思って土方さんの部屋に乗り込んだ。そして土方さんの前で正座して一言「仕事ください」というと土方さんは目を点にした。そして冒頭に戻る。
「つってもいきなりなぁ…」
「そこをなんとか。何かないですか?触れなくてもできるような仕事。」
「そう言われてもなー…女中も無理だし書類整理も無理。あと何かあったか近藤さん。」
あ、そうだ。忘れてたわけじゃないけど土方さんの隣にはボロ雑巾のようになった近藤さんがいる。理由は聞かなくても分かる、こういうことは何度もあるから。確か好いている女性への愛情表現がちょっとかなり度が過ぎていて…逆にぼこられちゃうらしい(強いなぁ)
「…スパイ係。」
「「は?」」
近藤さんがポツリと呟いた言葉に私はもちろん土方さんも声が漏れた。
ちゃん!!お妙さんの動向を探る係とかどうだ?数時間ごとに俺の所に来てどうだったか報告する!!なぁトシ!!」
「却下だ。」
「私も嫌です。」
即答でそういうとダブルパンチを受けた近藤さんは再びショックを受けて床に倒れ込んでしまった。なんか私がいじめたみたいですが嫌に決まってますよそんなストーカ行為。
「…待てよ?」
「?」
土方さんは何か考えるように顎に手を添えた。もしかして本当にお妙さんとやらのストーカーをさせるつもり…?
「こんなのはどうだ?」
そう言った土方さんの目は少し輝いていた。






「畑中さん11時から見回りですよー。」
「あ、そうだった!!今何時だっけ?」
「今は10時半です。そろそろ準備しないともれなく土方さんの鉄拳が来ますね。」
「うわ、あっぶね。ちゃんありがとう!」
「いえいえ、仕事ですから!」
慌てて去っていく畑中さんを笑顔で見送った。なんだかすごくいい気分で思わず鼻歌を歌いながら歩いた。誰かの役に立てるって何て素晴らしいことだろう。
土方さんが私にくれた仕事、それは伝達係だ。
まず朝に土方さんが壁に貼ってくれるみんなの予定表を見てそれぞれの行動をチェックする。そしてその人が何か忘れていたりした時には教える、または誰かが手を離せないとかそういう時に代わりに何か伝えてほしいと言われたらそれを伝えに行く。地味極まりない作業だけど意外とみんな忘れっぽいらしくて仕事も決して少なくはなかった。一言でいえば結構多忙で大変。でも今までの何もできない暇な日々よりは何倍もよかった。
唯、一つを除いては。



「総悟―…。」
「なんでさァ」
彼はいつも違う場所にいる。昨日は屋根の上。今日は屯所にある木の上。この前は風通しの良く且つ周りからは見えにくい建物の蔭だったっけ。探すこっちの身にもなってほしいんだけど多分本人はそれを楽しんでいるんだと思う。
流石サド王子…言っとくけど私にマゾっ気は髪の毛一本分もない。
「見廻りの時間なんだけど……。」
「だから?」
なんとなくだけど、土方さんが私にこの仕事を提案した理由が分かった気がする。
自他とも認めるこのサボり魔・総悟を何とかしろよコノヤローということに違いない!!
正直に云います。
無理だ!!!!!!!
「いやだからって…仕事でしょ?」
「俺の仕事は土方さんの抹殺だけでさァ」
そんな仕事あるか!そう突っ込みたいのをぎりぎり押さえて代わりに盛大にため息をついてやったら睨まれた。
「もう…私ちゃんと伝えたからねー。」
すいません土方さん私には無理でした…決して早々諦めたわけじゃないですよ、あれです、この人には何を言っても無駄だと最近悟ったんです。

「おい
呼びとめられて私は再び総悟の方を見た。やけに真剣な眼をしている彼に少しだけ驚いた。
「お前、楽しいか?」
「…え?」
「なんだっけ…その伝書鳩係とか言うやつでさァ」
「私鳩じゃないんですけど。」
「あぁ、じゃあ伝書霊ですねィ。」
間違ってないけどなんか嫌だ。
「…楽しい、のかどうかはよく分かんないけど、嬉しいよ。」
この数週間、私はみんなに支えられてきた。
もしみんなと出会わなかったら私は自分が死んだという事実をきっと受け入れられなかったと思う。それほど感謝してるの。
「だから私がみんなにできるのは…これくらいしかないでしょ?」
恩返しがしたかった。何もできない私を戸惑いながらも受け入れてくれた彼等に。
死んでからも幸せだと思えるなんてすごく贅沢なことだから。
「…それに何もすることないしさ!暇つぶしにもちょうどいいから!!」
「……そうですかィ。」
納得したのかしてないのか微妙な顔で総悟は木から下りてきた。
あれ、もしかして…。
「仕方ねぇから見廻り行ってきまさァ」
あんぐりと口を開いた。え、だってさっきまで絶対行かないって感じだったのに…。
そんな私の顔を見て総悟は噴き出して笑った。
「な、なによ!だって総悟がっ!!!」
「サボっててほしかったんですかィ?」
「そうじゃなくて…!!!」
ゲラゲラ笑う総悟に必死に弁解しようとしても聞いてもらえなくてむぅっと頬を膨らませたけど笑いが収まることはなかった。




「は―笑った笑った。」
「もう、さっさと見廻り行きなよ。」
「はいはい、伝達霊さん。」
「だから―!!はぁ、…もういいよ。」
これ以上言ったらさっきの二の舞になる。そう思って私はぐっと堪えた。
総悟に口で勝てる日は来るのかな…いや、来ない気がする。

「え、何?」
総悟は背中を向けていてどんな顔をしているのか分からない。だけどきっともうさっき見たいな大爆笑はしていない。
「お前はただ馬鹿みたいに笑っていればいいんでさァ」
ちゃんと総悟は分かってるんだ。私がみんなに負い目を感じていること。
ちゃんと伝わってるんだ。みんなのことが大好きだって言うこと。
うれしかった。総悟そう言ってもらうことが。お前は必要だよ、そう言われているみたいで。
すごくうれしかった。

「……ありがとう。」

だから彼の言う通り、笑ってお礼を言った。
もちろん後ろを向いている彼に見える訳ないけどきっと総悟なら私がどんな顔してるかくらいすぐに分かると思うから。



「じゃ、行ってきまさァ。」

「うん、行ってらっしゃい。」

こんな穏やかな日がずっと続いてほしいと思った。














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久しぶりすぎる更新…。
お待たせいたしました、ようやくです。
ほのぼのですがゆっくりと話は進んでいます。
あ、ヒロインの仕事は伝達係になりました。
別にスパイでもいいんですけどね(笑

ではここまで読んで下さりありがとうございました。

2010.10.31