どこだ、ここ…。
両親は子供のころ死んでその後育ててもらった祖父も死んでしまった。
残ったのは自分自身と祖父が私のために貯めてくれた少しのお金だけ。
1年はこれでやっていけるかもしれないけどこのままでいいわけがない。
そう思って田舎を出て江戸にやってきた。
正直期待していた。独りになったことが寂しくて江戸の街は人口もすごく多いと聞いていたから何とかなると勝手に決め付けていた。
けど迎えてくれた江戸は冷たかった。
田舎で育った私ができることと言えば畑仕事や薪割り。
そんな私を働かせてくれる店はどこにもなく門前払いがほとんど、受け入れてくれるといったら怪しい店だけだった。
死んでもそんな店で働く気はないしだからといってどうすればいいかなんてわからなくてあァこのまま死ぬのかなっとか思っていた時に見つけたのは1枚のチラシ。
『女中探してます、どんな人でも大歓迎。』
どんな人でもってことは田舎の人でもいいということなのだろうか。
悩んだって始まらないし行くだけ行ってみよう、これが最後の砦だ!!(意味が違う)
私はその言葉に飛びついた。女中が何なのかとかそれがどういうところかなんて一切考えていなかった。
「今日から女中として真選組で働かせて頂きます。です。」
試験というものなんてほとんどなく私はあっさりこの場所に受け入れられた。
田舎育ちだと聞いても俺達も田舎出身だから寧ろその方が気楽でいいと近藤さんが言ってくれた時には涙が出そうだった。
驚いたことに女中は私を入れて3人、しかも住み込みではたくのは私だけ(土方さんにこんな男しかいない所に住もうとするのはお前だけだと言われた…なんだか虚しかった。)
料理だって初めてだし(少しくらいはやってたけど基本的なものしか作れないからやっぱり初心者の域だもん)こんな広い屋敷を掃除するのも初めて。
しかも3人しかいないから毎日忙しくて最初はもう辞めたいとか思うこともあったけどみんなすごく温かくて面白くて優しくて…楽しい職場でしだいに自分の居場所を見つけられたような気がした。。
気付けば私が屯所にきて1週間が経っていた。
その日は1番年上の女中の人に買い物を頼まれていた。
もちろん二言で了承して大江戸スーパーに向かったのだ。が。
日頃の忙しさですっかり忘れていたことがあった。
私、職探しのとき以来江戸の街を歩いたことがない=何処に何があるかなんて知っている訳がないんだ、ということを。
「迷った…。」
案の定というかなんというか…。
大江戸スーパーまでは何とか人に聞きながら1時間かけてたどり着いた。そこまではよかったんだけど今は帰り道。どうやら道を間違えてしまったらしい。
自分を呪いたくなった。いくら道を間違えたからと言ってこんな狭くて薄暗い人通りが全くない道になんて普通来ないよ。
「私のバカ…どうやったらこんなところに来れるんだ。」
しかもこの薄暗さがかなり怖い。変質者とかいなかったらいいけど。うぅ、考えただけでゾッとする。
「とにかく広い道に出よう。そしてさっさと道を聞こう。」
前向きに前向きに!とりあえず近くの角を曲がろうとした、その時。
どんっ!!!
「わ、すいません!」
曲がろうとした角から出てきた人にぶつかり、尻もちをついてしまった。は、恥ずかしい…。
「気をつけろぃ。って、さんじゃねぇですかぃ。」
「お、沖田さん!!」
なんと角から曲がってきたのは沖田さんだたらしい。
沖田さんは私と同じくらいの年なのに真選組の隊長さんですごい人だ。
だけど何かと私にちょっかいを出してくる…たぶん年が近いからだと思うけど。
食事のおかずを一つ取られたり、掃除しているとゴミをまいてきたりその他諸々これはもう悪戯じゃないよねってことまで偶にしてくる。
でも一度見た稽古中の沖田さんはすごく真剣で、驚いた。正直、格好いいと思った。
そんな沖田さんだけどこんな辺鄙な所で会えたのもきっと何かの縁。これは助けを求めるしかないよね!!
「何してんでぃ、こんな物騒なところで。」
「み…道に迷ってしまって。」
「この歳になって迷子ですかィ。恥ずかしいですねェ。」
「……ご、御尤もです。」
くぅ、なんだか屈辱的だ。言い返す言葉がない。
このままだとダメだしされすぎて屯所に帰れない気がしてきた…。
「沖田さん、一生のお願いです。屯所まで連れてってください。」
「え、ヤダ。」
思いっきり断られた。
「な、何でですか!!理不尽な!」
「理不尽なのはこっちでィ。…でもまぁ助けてやらないこともないけどタダでは…ねィ。」
ほほう、どうやら沖田さんは何か貢げと言っているようだ。
ちなみに現在の私の所有物。
マヨネーズ五本、今晩のおかず、小銭。
「…仕方ないですね。はい、マヨネーズです。」
「そこは普通小銭だろ。」
「駄目ですよ、これは新撰組の予算なんですから。」
そう言うと沖田さんは仕方ねーなァと言って手を差し出してきた。
その手の意味がよくわからなくてきょとんと見つめていると今度はため息をつかれた。え、ひどくないですか…。
「仕方ねぃから今度団子奢れ。それで手を打ってやる。」
そう言いながら沖田さんは空いている方の手を引いて狭い道を慣れた足取りで進んでいく。
手、握れってことだったんだ。
普段細いと思っていた沖田さんだったけどその手は紛れもない男の人そのものでなんだか心拍数が上がってきた。
「わ、私子供じゃないです。手繋がなくてもついて行けますよ。」
というかこのままだと心臓が持たない。
「どうかねぃ、。こんな変な道に入り込むようだからさん、お前かなりの方向音痴だろ。」
う、痛い所を突いてきたな。
確かに田舎は一本道だったからこんな入り組んだところ分かる訳ないよ。
「だから今度買い物に行く時は俺に言いなせェ。団子1皿でついて言ってやるから。」
「え、集る気ですか。」
「当然だろィ。」
ニヤリとした笑顔で言われた。
でもきっとこれが沖田さんの優しさなんだろうな。何だかとてもうれしいような。
「ありがとうございます、沖田さん。」
屯所につくまで手は繋いだままだった。
私はそれがうれしくてうれしくて仕方がなかったんだ。
「ちなみに、団子ってみたらしですか?」
「いや、
みたらし餡だんご。」
なんだその怪しげな団子は。
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初沖田夢。
実はヒロインがいた道は不良がよく通る危険な道で沖田さんはかなり焦っていたという裏話があったりなかったり。
気が向けば続きも書きたいです。
2008.11.3