イマイチだったなァ。
心の中でそう呟きながら出口に向かう。インターネットのどこかの掲示板で面白いと書いてあるのを信じてせっかく見に来たのに。笑えない物の繰り返しじゃねーかコノヤロー。電車代返しやがれ。
そのくせ人は多いしなんだみんな掲示板見たのか?それとも実は全員知りあいだったりして…ま、どうでもいいや。
「う、うわっ!」
後ろからそんな声がしてボスッと俺の背中に衝撃が走った。誰かが激突したみたいだけど小柄なのかあんまり痛いわけじゃないからそのまま歩こうとしたけど
「す、すいません……あれ、沖田君?」
自分の名前に思わず振り向くと眼鏡をかけたやっぱり小柄な少女がいた。
「あんたは………誰でィ?」
ため息ついて分かってたけどねと呟いた少女に少しムカついた。
「去年同じクラスだったです。」
「よく覚えてんなァ。」
「ほら、沖田君目立ってたから。」
そーかァ?と言うとそうだよと即答された。そんなに目立ってた覚えはねェんだけど。
「沖田君落語好きなんだ。なんだか意外だね。」
「俺にとっては勤勉そうなの方が意外でさァ。」
「あれ、思い出したの?」
「俺の記憶力を甘く見んなよ☆」
「……。」
話しているうちになんとなく思い出した。確か成績がクラストップの眼鏡で黒髪の三つ編みのやつだ。女子で眼鏡のやつはしかいなくて(他のやつはコンタクトらしい)なんとなく覚えていた。
「最近好きになったんだけどね。寿限無にハマっちゃって。」
「あァ、寿限無は最高傑作でさァ。」
「うん、そこから色々見てるんだけど面白いよね。」
何故か話の合うとそこから何時間も話して日が暮れることにはすっかり意気投合していた。
「ここまで話が合うやつは初めて会いやした。」
「うん、私も!」
「今度一緒に見に行きやしょう。」
「うん!」
そういって別れた俺たちが次に会うのは1週間後のことだった。
私のクラスはZ組から遠く離れたA組。あの時は勢いで一緒に見に行こうと約束しちゃったけど正直無理だと思っていた。Z組は個性派ぞろいでなんだか入りにくいし私の足だと廊下往復に10分以上かかるから休憩時間では無理だった。昼休みなんてもっと行きにくいし…きっと沖田君と話すことなんて、もうないと思っていた。大体かっこよくてモテル男ランキングに入ってそうな沖田君とあんなに話していたことさえもいまだ信じられない。あぁ、あの時の私は幸せだったなぁ。いい思い出として持っておこう。そう一人で勝手に思っていたんだけど…。
「―。」
彼は約束通りに来たのです。
「えぇ!どしたの沖田君!!」
「何言ってやがんでィ。が来ねぇから俺が来たんだろィ。」
「いや、本当に来るとは…。」
「俺は約束を守る男ですぜ。」
「えーと…ですね。」
沖田君は顔がいいこと自分で知らないのかな。みんなの注目が私と沖田君に集まっていて…自然に顔が赤くなる。普段地味な私がまさかまさかこんなに目立つ日が来るなんて。
「…とにかく、別の所で話そうか。」
沖田君はにやりと笑って教室を出て行った。…もしかしてはめられた?
「沖田君…もう教室には来ないでね。」
「何ででさァ。」
やってきたのは屋上の隅っこ。お昼休憩だからいろんな所に人がいて唯一誰もいないのがここだった。屋上の隅で体操坐りのこそこそ二人組は絶対周りから見て変だと思う。
「が来ねぇから仕方がなく俺が来てやったんだろィ。」
「うっ、そ、それはそうだけど…」
グサリと言われて言葉に詰まっる。沖田君の言うことは全くその通りで私のはただのわがままにしか過ぎないんだから。
「…なんで嫌なんでィ。」
「………へ?」
びっくりした。沖田君こんな人だっけ?去年のイメージだともっとサドっ化の強い(むしろ強すぎる)人だったはず。こんなちょっと拗ねたような、不安そうな顔をすることなんて一度もなかったのに。
「さっさと答えろィ」
「えと、沖田君はさ、目立つから。みんなの前で一緒にいるのは恥ずかしくて…。」
顔が赤くなる。自分が傷つきたくないが為に沖田君に迷惑かけて、困らせて。そんな自分がすごく嫌なのにどうすることもできない。何でこうなんだろう、私…。
「別に好きでこんな顔に生まれたわけじゃねェやィ。」
「…うん。」
「ただ俺はと落語が見たいんでさァ。」
「う……ん?」
それを彼がどういう意味で声にしたのかなんて分からない。だけど一歩間違えたらそれは、
落ちて往く言葉
(告白の言葉だと思う、本人にその気はないだろうけど)
「仕方ねぇからこいつをくれてやらァ!」
渡された紙にはいつの間にかいたのか、ソレを見て驚く私に沖田君はあのにやり笑いで
「連絡しろよ。」
沖田君の優しさに気付いたのは彼が屋上を去った後だった。
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いつか書きたかった落語の話
一度見たことあるのですが落語面白いです。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
2009.4.26