綱吉君と変わって私は人生が変わった。
大げさって思われるかもしれない、だけど本当にそう思うの。
じゃあ私は綱吉君に何をしてあげた―――――?
W
「じゃあまた明日ね。」
「うん。バイバイ。」
いつもの別れ道。そこで私たちは手を離した。今日は学校側の都合で授業はお昼まで。だから夕方と違って人通りが少なく私たちは手をつないで帰っていた。こんな所他の人に見られたら…………か、考えただけで顔が赤くなる…。ぜ、絶対無理だよ…。
「どうかしたの?顔赤いけど…。」
「あ、ううん!!!なんでもない!!」
何を考えてたかなんて恥ずかしすぎて言えるわけなくて必死に首を横に振った。
そんな私を綱吉君は優しく笑ってくれた。距離が縮まる…え、ちょっと待って綱吉君。それはいくらなんでも近すぎるんじゃ…。視界に移るのは綱吉君の顔だけ。思わずギュッと目を瞑った。
柔らかいものが私の唇に触れたかと思うとすぐ離れた。
……え、今のって…。
びっくりして目を開くと綱吉君は真赤な顔で俯いていた。
「ご、ごごごめんいきなり!!!!じゃあまた明日ねっ!!!!」
綱吉君はそう言い残すとものすごい速さで走って行った。私は一人取り残されて、ポカンと口を開けた。
これって、やっぱり…所謂キスっていうのなのかな?思わず唇に指先が触れる。温かい感触が何時までも私の中を駆け巡った。
どのくらいそこでじっとしていただろう。
頭が落ち着いて、私はやっとのことで足を動かして家へと向かった。
だってだって、キスなんて。私ファーストキスだったし……そういえば私は、ファーストキスだったけど綱吉君はどうなのかな?でもかっこいいから過去に恋人の一人や二人や三人くらい―――――――そこまで考えた時だった。
ゴンッ
いきなりだった。
背後から硬い物で殴られて思考が停止する。そしてぐらりと身体が傾いて地面に倒れこむ。ジンジンと痛む頭を触るとどろりとした感触が手を伝って脳へ流れてきた。赫い液体が手を汚していた。
何が起きたのか、分からない。しだいに視界が狭くなっていく中、前に気配を感じた。霞む視界で見上げるとそこには真黒のスーツを着た人が数人いた。
「俺たちを恨むな。恨むならボンゴレを恨め。」
視界が真っ黒になって、そこからは何も覚えていない。
「(あ――も――!!!!俺いきなり何やってんだよ!)」
何で俺いきなりキスなんてしたんだ?!
何を考えていたのかは知らないけどが赤くなって嬉しそうにしている姿が可愛くてどうしようもなくて。そう思ったらキスをしていた。気付いたのはキスが終わった後で居てもたってもいられなくて逃げるように帰ってきた。初めてのキスをこんな風にするとは思ってなくてパニックになって…。は…どう思ったんだろう?やっぱあの時逃げ出さずにちゃんと見とくんだった!だから俺はダメツナなんだ!!
「おいダメツナ。さっさと解きやがれ。」
…のことはまた寝る前にでも考えよう。とりあえず今は俺の目の前に広がっている数学の問題に集中しないとまたリボーンが何をするか分かったもんじゃない。
もう日も沈みかけていてそろそろリボーンの堪忍袋(そんなものがあるところみたことないけど)も切れる。だけどどんなに睨みつけてもその問題が解けることはなかった。
あーあ、誰か助けてくれないかな……。
「ツッくーん。ちょっといいかしら。」
神の助けだ。母さんの呼び声に意気揚々と部屋出て階段を下りていく。リボーンは舌打ちをしていた。
母さんは電話の前にいた。
「何?」
「ちゃんまだお家に帰ってきてないみたいなんだけど何か知りませんかって…。」
一気に地獄に落ちた気分だ。俺の背筋は凍った。
頭ががんがんする…。そう思って目を開けたはずなのに周りは真暗だった。
「ここ…どこ…?」
呟いた声は反響して私の元へと帰ってくる。だんだん視界が慣れてきてやっと目にしたのは積み上げられた段ボールの山と窓のない部屋だった。床はコンクリートで冷たい感触が足を震わせた。
「や、やだ…。」
怖い、怖いよ。早くここを出よう。
「う、うわっ」
ドスンと音をたてて立とうとした体は倒れこんだ。よく見ると手足は太い縄で縛られていて引っ張ってもびくともしない。
頭を落ち着かせて考える。これって…拉致、だよね…?どうして―――――?
「お、気がついたみてぇだな。」
軋む音を立てながらドアが開いて光が部屋に差し込んだ。眩しくて思わず目を反らすとその様子を見て声の主は笑っていた。目を細めながら声の主の顔を見る。
「っひ…。」
真黒なスーツを着た男性は顔に傷痕がたくさんあってとても普通の人だとは思えない。怖くて逃げたくて震える体でもがくけどうまく体が動かない。
「そう怯えるなよ。今すぐ殺そうなんて思ってねぇんだから。お前は大事なカモだからな…。」
「い、いたっ…」
近寄って来た男は私の髪を掴むとぐいっと持ち上げた。
怖いよ、誰か助けて……綱吉君!!
「その手を放せ、ベンゼン。」
聞きなれた声。扉の方にオレンジ色の炎が見えた。
「…これはこれは。救世主ボンゴレの登場だ。」
「……もう一度言う。を放せ。」
あれは…綱吉君だよね?なんだかいつもの優しい雰囲気が感じられなくて少し怖くなった。
男は私の髪を離した代わりに私の首を腕で絞めた。
「うっ…」
さっきのは痛かったけど今度は地味に苦しい…。
「ここで離してしまったら苦労して攫ってきた意味がないだろう?」
ゴツ
冷たくて硬いものが私の頭に当てられる。なんなのかは私から見えないけど顔をしかめた綱吉君と今の状況からは想像できた。
拳銃だ――――――。
そう理解した瞬間私の頭はパニックに陥った。
「っ、いや、嫌だっ!!!!!!」
怖い怖い怖い!!!ただそれだけが脳を支配して私は体をねじって男を拒んだ。そんな私の突然の行動に驚いて男は少し怯んだ。その瞬間を彼は見逃さなかった。
いつの間にか綱吉君は私たちの後ろに立っていてオレンジ色の瞳で男を睨みつけていた。
「終わりだ。ベンゼン。」
綱吉君が手を振り上げた。
「大丈夫?痛い?」
「うん…少し痛いけど、大丈夫。」
手足の縄をほどいてもらうと少し痣ができていた。その様子に綱吉君は顔をしかめた。
頭から流れていた血は気絶している間に止まったみたいでそれにはほっとした。
綱吉君が来て、やっと自由になれて。もう大丈夫なんだ…そう思うと今更ながら涙があふれてきた。
「………。」
「ご、ごめんね…今頃実感出てきて…。ありがとう、綱吉君。」
綱吉君が来てくれて、よかった。
「ごめん、…俺のせい…だ。」
「…え?」
何のことか分からなかった。
「別れよっか。」
嘘だと言ってほしかった。
君と僕を繋げるガラスの靴
(パリンと割れる音がした)
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次でラストです。もう少しお付き合いくださいv
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
2009.1.8
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