「あれ、?」 「い…泉君?!」 下駄箱を半分開けた姿勢で私は固まった。 「何やってんの?」 「いいいい泉君こそっ!!」 「俺は部活帰りだけど…。」 「こ、こんな時間まで部活してるんだ…お疲れ様。」 「おぅ。」 ただいまの時刻、21時。こっそり家を抜け出して学校へと足を進めてからすでに1時間の時が経っていた。 誰にも会わず、こっそりと用事を済ませて家に帰って完璧!なはずだったのに現実はそうではなくてあと一歩のところでクラスメイトの泉君と遭遇した。 「で、お前こんな夜遅くに何やって…」 「おーい、泉―。かえっぞー。」 校舎の角から近づいてくる足音と聞き覚えのある声が聞こえた。 (げっ、あの声は田島君!?これ以上誰かに会うのは避けたいんだけど…。) 顔を青くしてあたふたしていると泉君が横目でこちらを見てきた。 「おー、教室に忘れ物したから先帰ってろ。」 気の抜けた(たぶん疲れてるのかな…?)おーって言う声が聞こえたかと思うと遠ざかる足音が聞こえて安堵の息を漏らした。 「ありがとう…。」 「で、は何してる訳?」 私のお礼を完全無視して泉君はこちらを睨んできた。 「え、えーと。忘れ物を…」 「嘘だろ。」 うう、やっぱ泉君は騙せそうにないな。けど本当のことを言うのは恥ずかしいし。…といっても本当のこと言わないときっと帰してくれないだろうし。 どうしようかと悩んでいると泉君はため息をついた。 「…そこ、北崎の下駄箱だろ?」 (す、鋭い…) さっき手にかけていた下駄箱は隣のクラスの北崎君の下駄箱だ。私は、そこに手紙…所謂ラブレターを入れるために真夜中の学校まで来たんだ。北崎君は優しくて格好良くてすごくモテて。だから直に告白することなんてできなかった。だけどなんとかして気持ちを伝えたくて3日3晩かけてラブレターを書いて。夜中のうちにこっそり入れておいたら大丈夫!って思ったんだけど…私の考えが甘かったみたい。心の中でため息を吐いた。 そんな私に泉君は追い打ちをかけた。 「…、知ってる?北崎って3組の女子と付き合ってるらしいよ。」 「え、嘘っ?!」 「マジマジ。本人が言ってるの聞いたんだから。」 そ、そんな…。私の今までの苦労は一体何だったの。何のために必死に手紙書いて怖い思いして夜の学校に来て…。 「――っ…。」 「…?」 ボロボロと涙がこぼれだす。そんな私を見て泉君はぎょっとしたような顔になったけど構いやしない。 ―――――――だって、本当に好きだったんだよ。 「…あー。とりあえず、今日は家まで送っていってやるから。」 「…いいよ、一人で帰れるから…。」 ぐすっと鼻を鳴らしながら答える。きっと今、泉君は呆れてるんだろうな。ラブレターなんか書いて下駄箱に入れようとするなんてベタな手使ってるのに結果は失敗。こんなの笑い話にもならない。 「北崎ってさー女癖悪いんだぜ。中学の時5人と同時に付き合って同時に振ったとかあるんだって。」 「…へっ?」 信じられない言葉に思わず口をポカンと開けた。ついでに涙も引っ込んだ。そんな、まさかあの北崎君が? 「俺的にはあんまりお勧めできる奴じゃないぜ。正直なところ。」 泉君は確か北崎君と同じ中学…だからこの情報はきっと嘘じゃない。大体こんな場所で嘘ついても泉君に何の利益もないわけだし。 「…じゃあ、泉君は誰だったらお勧めなわけ?」 嘘じゃないって分かってても今まで好きだった人を悪く言われたことに少しムッときたのもあった。けどそれ以上になんだかすごく気になった。 そんな私の気持ちを知ってか知らずか相変わらず泉君は飄々として 「んー…俺とか?」 …飄々としてそう言いきった。 「……は?」 顔が徐々に赤くなっていくのが分かる。これって、遠まわしだけど…告白、だよ、ね…? 「俺にしときなよ、。」 にやりと笑う彼の顔に私は一瞬めまいを覚えた。 (「狙った獲物は逃がさない」 顔に書いてあった) +++++++++++++++++++++ ちょっと前に書いたもの。 たしか漢文の授業中に思いついたものです(オイ 泉君ならこんなセリフ本当に飄々と言えそうです。 ここまで読んで下さりありがとうございました。 2009.1.27
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