その後ろ姿を見た瞬間、ついてないと思った。













一日の授業が終わって帰るだけ。
そんな放課後の雰囲気が私は大好きだった。開放感にあふれた人を見るのも、自分もその中に加わるのも。
だけど今日はその中に加われずにいた。だって、掃除当番だったから。
―こっちゴミ残ってる。」
「え、あ!本当だ!!」
箒でせかせか掃く私と机運びをする友人。他にも人がいるけどみんな真面目にする気はないみたいでのんびりと机を運んだり箒で掃いたりしている。早く終わらせたいって思うのは私だけなのかな…。5分で終わる掃除も10分かかってしまった。
やっと終わってさあ帰ろうかと鞄を取りに行こうとすると目の前に黒い物体が迫ってきた。
「はい、そんな真面目なちゃんにゴミ捨てをお願いします。」
「え、何で私なの?!」
「だって私委員会だし、他の人もういないし…頼んだ!!」
確かに掃除が終わってすぐに他の人はそれぞれの部活動に行ってしまったみたいで教室には私と友人しかいない。それに目の前で両手を合わせて懇願する友人を見捨てる度胸を私は持っていなかった。
「…分かったよ。その代わり、ちゃんと送れずに委員会行ってよね!」
「うん!ありがとう。今度何か奢るね!」
「…期待せずに待ってるよ。」
この人がお金関係の約束を守ったことは一度もなかった。
急ぎ足で教室を出ていく友人を見送って私は黒いごみ袋を抱えて歩きだした。




















「…好きです。」
そんな声が聞こえて思わず足を止めた。
ゴミ捨て場は校舎裏にあって人もめったに来ないし、何より見えにくい。だからこの場所は内緒の話をするには絶好の場所だった。例えば…今みたいな、告白とか。
私としてはゴミ捨て場で告白ってちょっと嫌な気もするんだけど…なんでも呼び出すにも分かりやすいからいいらしい。
ってそんなことを考えている場合ではなくて、今の状況は私が困る、非常に困る。今日は宿題もどっさり出たから早く帰りたいのに。でも今ここで場をぶち壊す訳にも行かなくて私は校舎の陰からひっそり成り行きを見守っていた。
早く終わってくれないかな…というかだれが告白してるんだろう。知ってる人かな?ちょっとくらい…覗いてもいいよ、ね?好奇心半分そうじゃないのも多分半分の面持ちで私はちらりと覗いた。その瞬間、見るんじゃなかったという後悔が私を支配した。
告白されているのは、孝介だった。








孝介――――泉孝介は私の幼馴染で小中高と同じ学校でついでにいえば家は目の前だ。昔はよく野球したり一緒に宿題したりと何かと交流があったけど今はクラスも違うし話す機会もほとんどなかった。たまに廊下で会ったら話す、その程度。それに孝介は野球部で朝早くから帰り遅くまで忙しいみたいだし。
そんな彼が告白されてるなんて思ってもなくて驚き反面少し悲しかった。なんでだろう。ただの幼馴染なのに。ああ、だけど昔から孝介のとなりにいる時が一番安心するって思えるんだよね。たぶんそれは今も変わってなくてその場所が取られるから悲しいのかな…?
よく分からない気持ちを抱いたまま必死に耳を澄まして会話を盗み聞きする。普通なら聞かない方がいいんだろうけど、相手は孝介な訳だし幼馴染として知っておいてもいいかなって思うし…これって嫉妬?いや、ちがうよ。私は孝介のこと確かに特別だとは思ってても好きなんて思ったことはない…はずだもん。
「悪ぃけど。」
「な、なんで!!泉君、付き合ってる人いないじゃん!!」
お、積極的だ…。そう言えばあの女の子可愛いって有名な子じゃないっけ…その可愛い子が孝介のことが好きで、でも孝介はその子をふってるんだ…。
「付き合ってる人はいないけど、俺好きなやついるし。」
「……そっか、ごめんね。」
女の子は涙声で、きっと無理やり笑いながらその場を後にしたんだと思う。見てないから分かんないけどそんな気がした。 ふってよかったと好きな人がいるてショックと言う気持ちが胸の中で渦巻いて落ち着け私、と言うように一息ついた。それと同時に持っていたごみ袋がガサリと音をたてて手の中から転げ落ちた。
(ゲッ……)
逃げようと思った時にはもう遅くて、孝介は呆れ顔でこっちを睨んでいた。
「……や、やっほー。」
「…盗み聞きは最低なんじゃねェの。」
「好きで聞いてた訳じゃないもん。むしろ私の方が迷惑だったんだから。いつまでもゴミ捨てられないし帰れないし…。孝介のせいだからね!」
「…なんだよそれ。」
落ちたごみ袋を拾って籠の中に突っ込む私を孝介はじっと見ていた。
「…好きな人、居るんだ。」
「………おぅ。」
「そっか。もう顔面にボールが当たって泣いてた頃の孝介とは違うんだよね。」
「お前は俺をなんだと思ってんだ。」
懐かしいな。孝介とこうして話すことができるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
「お前はいないのかよ。」
「え?」
「…好きなやつ。」
「わ、私?…いない、けど…。」
「…ふーん。」
なんだこの微妙な空気。話せたことは嬉しいけどなんだかぎこちなくて気持ち悪い…。
「そろそろ私行くね。孝介も部活頑張って。」
孝介に背を向けて走り出そうとするとパシッと腕を掴まれた。
「俺が好きなの、馬鹿で阿呆な幼馴染なんだけど。」
こっちを見る孝介の顔に思わず顔が赤くなった。あれ、こんなに格好よかったっけ?
「ば、馬鹿で阿呆は余計だよ…。」















PARADOX
(遠くて近い関係)















結局その日は野球部が終わるまで図書室で宿題をして待っていた。

++++++++++++++++++++
初泉君夢。
泉君はヒロインのことを名前では呼んでくれませんでした。
泉君の口調いまいちよく分かんないし…。
ほのぼのを目指したつもりです。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

2009.1.25