このまますべてを投げ出して家へ帰りたかった。 2月14日。バレンタインデー。 女の子が好きな男の子にチョコを渡す日。 去年までは縁もなかったこの日だけど今年は違う。1学期から付き合い始めた彼――綱吉君に今年はあげるんだ!! 張り切って1ヶ月前からずっと考えて苦手ながらも料理をしてやっと完成した。のはいいけどそこからが問題だった。 (いつどこで渡そう…) 今日は放課後に委員会があって一緒に帰れないし…渡すなら昼休憩しかない。 そう思って私は今、綱吉君のクラスに行っている。喜んでくれるかな。味見した時はおいしかったけど味変わってなんかないよね?そんなことを考えているていつのまにか綱吉君のクラスの前に来ていた。だけどなんだかいつも(と言ってもあんまり尋ねることはないけど)と違う雰囲気に私は首を傾げた。 (…やけに騒がしいような…?) 不思議に思って少し教室をのぞいてみるとそこは人であふれていた。 「山本君!これ貰って―!!」 「獄寺君好きです!!!」 「ちょっと私が先なのに―!!」 「……うわぁ…。」 例えるならそれはバーゲンの様。オバさまたちが服に群がる光景にとても似ていた。 やっぱり山本君と獄寺君は人気者なんだなぁ。あと 「沢田君!貰って―!!」 綱吉君、も。 仄かに顔を赤くして困ったように笑う綱吉君がそこにいた。 チクリ ん?なんだろうこれ。何だか胸がもやもやする気が…。と、とりあえず、あの人ごみの中に入っていく勇気を生憎持ち合わせていなかった私は元来た道を引き返した。 またあとで私に来よう。 そして気がつけば放課後。 あの後再び行ってもやっぱり女の子で溢れていてとてもじゃないけど入れる余裕なんてなかった。…私の弱虫……。 委員会も済んでせっかく頑張って作ってきたお菓子も渡せないまま一日が終わろうとしていた。 「…なんだかなぁ。」 カバンを持ってとぼとぼと下駄箱に向かう。部活もすでに終わっている時間だったので周りに人はほとんどいなかった。どうしようこのお菓子…帰って自分で食べちゃおうかな…。 確かに渡せなかったのは私に勇気がなかったから。だけどなんとなく渡したくないとも思ってしまったと言うのもあった。昼休憩に見た沢田君の微笑みが頭の中でぐるぐる回っていた。(なんだろうこのモヤモヤした感じ…) 「。」 下駄箱にもたれかかった人が私を呼んだ。 「…綱吉君…。」 夕日に染まった綱吉君の髪はすごくきれいな色だった。 「待ってるなんて思わなかったよ。」 「うん、びっくりさせようと思って。」 いつもと同じように二人で帰る帰り道。でもなんだかちょっと微妙な雰囲気だった。それを作り出しているにはきっと私なんだけど。 「…、さ。今日昼休憩俺のクラス来ただろ?」 「え、えぇ!?何で知ってるの!!」 「山本が見たらしくって…なにか用あったんじゃないの?」 どうしようどうしよう!!まさか見られてたなんて。こっそりのぞいたはずだったのに…。 「……あの、ですね。」 「うん。」 じっとこちらを見てくる綱吉君。最近は慣れてきて赤くならなかった私の頬は昔のように赤くなっていた。 「バレンタインデーのお菓子を渡そうと思って…。」 きょとんとした綱吉君の顔。え、まさか私からもらうつもりなかったとか…?え、ええぇ…どうしよう!! 「…よかったぁ…」 綱吉君がほっとしたように笑った。 「な、何が…?」 「もしも付き合ってるのに貰えなかったらどうしようかと思ってたんだよ。昼休憩渡してくれてよかったのに。」 「だ、だって綱吉君女の子に囲まれてうれしそうだったから…」 「…もしかして嫉妬?」 「っ?!」 嫉妬?!私、嫉妬してたの??あ、でもそうなのかもしれない…だって綱吉君がほかの女の子と話しているのが嫌だったなんて…どこから見てもこんなの嫉妬以外何者でもない。そう自覚したらなんだか余計恥ずかしくなってきちゃったよ…。 「…俺さ、確かにたくさんもらってくださいって言われたけど一つも貰ってないよ。」 「え…?」 「俺が欲しかったのは、のだけだからさ…。」 綱吉君の顔も赤かったのはきっと夕陽のせいだけじゃない。 (愛と嫉妬詰まってます。) ++++++++ バレンタイン夢です。 実は灰かぶりの番外編だったり…。 ここまで読んで下さりありがとうございました。 2009.2.10 |