出会えたことが奇跡だった。
例え叶わぬ恋だと知っていても、彼が私を必要としている…その事実だけで幸せになれるんだ。
『無理に決まっているだろ。』
『諦めた方がいいんじゃ…』
何度そう言われたか、とりあえず数えるのも億劫になるほど言われてきた。
分かってる、分かってるの。
そんなの私が一番分かってる。
いつも一緒にいるのに遠すぎて決して縮まることのない距離。
だけどこの気持ちをとめることはできなくて。
『どうしてそんなに彼が好きなの?』
あぁ、きっと君には一生分からないだろうね。
だって私にもよく分からないのだから。
ただ彼に救われたその瞬間、私の世界に色がついたんだ。
そう気付いた時、もう引き返すことなどできなくなっていた。
「本当に使えないな、こいつ。」
そういって私は硬く鋭い靴の先で蹴りあげられた。
悲鳴を上げることさえもできず、ふわりと宙に浮いた体は重力に従って下方へ行くと、ズザザと摩擦音を立てながら地面に打ち付けられた。
蹴られた個所が、擦れた皮膚が痛くて、痛くて…ただ涙を流すことしかできなかった。
そんな私にかまわず、制裁は次々と加えられる。
「おまえなんか、いらない。」
それは絶望の言葉なんだと、きっと気付いていないのだろう。もちろん私が目を大きく見開いて、流す涙が増えたことにも。
私たちにとって絶対的な存在、其の人にそう言われてしまったら全てが終わってしまうのに。
泪が何度も頬を伝い、地面にしみを作る。
私、死ぬの…かな?
ゆっくり目を閉じる直前に見えたのは、迫りゆく靴の底だった。
「…ずいぶんな趣味だね。」
来るはずの痛みを感じなくて変わりに聞こえた声がそれだった。
訳が分からなくて閉じた瞼を再び開けると、かすんだ視界が背の高い人物をとらえた。
横たわっている私にはその全貌を見ることはできないけれど、漂うオーラは今までに見てきた誰よりも凄まじいもので、知らないうちに鳥肌が立っていた。
「な、なんだぁ?おまえ…」
「悪いのはこの子じゃなくて君の使い方…だろう。」
「んだと?!」
荒い声とバシュッという鈍い戦闘音が辺りに響く。だけどそれも数秒で終わって、ドサリと崩れ落ちたのは私の主人の方だった。
呆然としていている私をよそに、足音は確実にこちらに向かって来ていて、そして私の前でとまる。
あぁ、結局私の運命は変わらないのか。
そう肌で感じ取った。
しかし敵であるはずの男は、私をやさしい手つきで持ち上げるとじっと真黒な瞳で見つめていた。
瞳だけじゃない、髪もスーツも、何もかも黒くて…綺麗だと、思った。
「ふぅん、雲属性か……」
「ねぇ、君。…僕のところにおいでよ。」
『匣兵器が人間を好きになるなんて、聞いたことないよ。』
ロールさんはわざとらしくため息をついた。
『…ロールさんだって、雲雀のこと好きじゃないですか。』
口を尖らせてそういってもどうやら効き目はないらしく、相変わらず呆れた顔で私の方を見ていた。
『僕の好きは忠誠心であって恋ではないよ…分かってるでしょ。』
『…うぅ、そうですけど……』
誰かに分かってもらおうなんて、都合のいいこと思っていないのだ。
だって自分でも馬鹿だって思うから。
…それでも、
『叶わなくても…いいんです。ただ、傍でお守りできれば。』
始めて私を必要としてくれた方だから。
あの時私に希望という名の光を与えてくれたのは、間違いなく雲雀なのだ。
確かに前の主人と比べて雲雀の指示は的確だったし、私は雲雀のところに来て、負けることが無くなった。
私が敵を倒して、彼のもとに帰るたびに見えるもの。
少しだけ緩む口元、細くなる目。そして私の頭をなでて、
「よく頑張ったね。」
と言ってくれる。
これほどの幸せはない。
『…諦めないんだね。』
『楽なもんですよ。元から叶わないって分かってますから。』
そう、だから逆に明るくいられる。
『…。』
『?何ですか??』
ロールさんは少し悩んでからポツリポツリと言葉を紡いでいった。
『確かに、かなわないと思う。これは確かなことだ。だけど、そうやって誰かを大切に想うことは、すごくいいことだと僕は想うよ。だから…その気持ち、大切にしなよ。』
『…あわわ、私今危うくロールさんに惚れそうになりました。』
『阿呆…』
ぷいっとそっぽを向くロールさんにありがとうと笑っていった。
今日も明日もその先も、私は雲雀のためだけに生きていこう。
そう思った。
君を守るチカラ
(それが私の、愛の標)
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ネタだけあった匣兵器ヒロインを勢いで書いて見た。
読んでいて最初はなんだこりゃって思う気がするぞ…うむむ。
ロールが男前になったのは予想外…。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
2010.8.26