人は本当に絶望した時世界が黒く染まる。目の前が真っ暗になって何も考えられなくなる。絶望の真の意味はそこにあるのだ。
どこかでそんな文章を読んだことがある気がする。それが何かの小説だったのか又は評論とか小難しい文章だったのか覚えてはいないけどそれを読んだ時俺は、そんなことある訳ないだろと高を括っていた。だけどそれが本当の話だと身をもって知ることになるなんて、きっと俺だけじゃなくて誰も予想していなかったと思う。







「失礼します、10代目!!」
バンッと扉が開いて獄寺君が慌てた様子で部屋に転がり込んできた。いつも丁寧なノックとにこやかな笑顔を浮かべているのに。なんとなく嫌な感じがした。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「…っ。い、今…連絡が入ったんですが、ボンゴレの別荘が襲撃されて…崩壊した、と…。生存者は…ゼロ、らしいです…。」
ぐらりと身体が傾いた。今彼はなんて言った…?別荘が襲撃…?別荘には今、がいるのに…?
俺の中に先日の記憶がよみがえった。






、最近体調悪いよね?…大丈夫?』
『え…ばれてたんだ。』
『俺の超直感を舐めないでよ。』
『で、でも平気だよ!!ちょっと疲れが出てるだけだから…ねっ!』
そんな言葉を無視して俺はの額に手を当てる。…少し熱かった。
『ちょっと休んだ方がいいね。今も微熱ありそうだし。』
『綱吉…私の話は無視ですか。』
『まあまあ。明日休み取りなよ。最近休んでなかったし丁度いいだろ?』
『い、嫌だ……。』
は真面目だ。だから大切な時に限って強情なんだよな…。
『…そうだ、ついでだし別荘に行ったら?』
『別荘って…あの新しくできたところ?』
『うん、俺しばらくいけそうにないし視察してきてよ。』
『それって立派なお休みじゃない。』
『まっさか〜。ちゃんとした仕事だよ!』
『…分かったよ。行けばいいんでしょー。』
『そ、そんなに怒らなくても…』
『別に怒ってませんよ―っだ!!』
スタスタ歩いて行く。なんだか逆に怒らせちゃった?明日一日会えないのにこんなのでいいのかな…?そう思っていたらピタリとが足を止めた。
『綱吉…ありがとう。大好きだよ。』
笑顔のの顔は少しだけ赤かった。ああ、かわいいなと思ってしまう。俺はこんな恋人がいてとても幸せ者だ。
『うん、俺も愛してる。』
は幸せそうな笑みを残して部屋から去って行った。






信じられなかった。なんで今日に限って別荘が襲撃されたんだ?何でだよ!!
『生存者は…ゼロ、らしいです…。』
…大丈夫、は今までも数々の苦難を乗り越えてきたんだから。きっと生きてる。馬鹿だね綱吉って笑いながらひょっこり俺の前に現れすに違いない。
獄寺君は別荘に言って状況を見てくると言って出て行った。俺も行きたかったけどボスが出て行く訳にもいかないしここで待機することになった。1分1秒が惜しくてたまらない。早く帰って来いよ!!頼むから、早く―――――
「…10代目……。」
「あ、獄寺君…、は?」
獄寺君は苦い顔をした。血の気が引いていく。獄寺君の後ろには愛おしい彼女の亡骸があった。






「ツナの様子はどうだ?」
「静かにしろ野球バカ。…まだ部屋に閉じこもったままだ…。食事もほとんど手つかずの状態だ…。」
「そうか…こういう時に小僧がいてくれればな…。」
「リボーンさんは今仕事で東南アジアにいるからな…まだかかるらしい。」
二人の会話が扉越しに聞こえてくる。たくさん迷惑かけてる。ボスなのに、本当に申し訳ない。部屋を出て謝らなきゃ、そう思っても体がだるくてベッドから起き上がることさえできなかった。黒い感情が俺を支配していく(あぁ、これが「絶望」か…)

を殺したのは俺だ―――――
一番大切に思っていた。一番守りたかった。そんな人を俺が殺した。そう思うとじわりと視界がぼやけてああ俺はやっぱりダメツナなんだなと思った。中学の頃よりもずっと強くなったって自負していた。それがいけなかったのかもしれない。
『綱吉はダメなんかじゃないよ。私はちゃんと知ってるから――――』
目を閉じれば思い出す彼女の声に俺は顔を顰めた。会いたい、会って抱きしめたい。とても簡単なこと何にそんなこともできなくなってしまった。
(…は最期に何を思ったのかな…?俺を…恨んでた、かな…?)
重い体を無理やり動かす。別荘までは歩いて1時間だ。









惨状は聞いていたけど実際に見るとそれはかなり酷いものだった。思わず俺は眉をひそめる。できたばかりできれいな色をしていただろう屋敷は黒一色で埋め尽くされていた。
千鳥足で別荘の中へ入っていくと柱と言う柱は全て焼けていて逆に屋敷の形が残っているのが不思議なくらいだった。一歩歩くたびにギシリと唸る床に注意しながら俺は奥へ奥へと進んで行った。ただ一つの部屋をひたすらに目指した。


その部屋の扉はなくなっていた。襲撃は大量の爆弾だったらしいから燃えて焼け落ちたのかボンゴレの作業員が壊したのかはよく分からない。俺はそのまま部屋の中へと入り込んだ。
部屋の中ははかと同様に黒く焦げていてなんとかベッドと机が形を残していた。は昨日ここにいたんだ。ここで……。
机の上に手を置いた。ザラリとした感触が皮膚を伝ってくる。そこでふと机の引き出しに目がいった。何気なくその引き出しを開けるとそこには黒く焦げた大量の書類が入っていた。
…休めって言ったのにここでも仕事してたのかよ…。」
なんのための休みだよ。だけど彼女らしい行動に思わず笑みがこぼれた。と同時に涙もこぼれた。



パラパラと書類をめくっていく。黒くはなっているけど屋敷ほどではなくて独特の字が読み取れた。それがひどく懐かしくて、哀しかった。
また一枚、ページをめくったところでひらりと小さな紙が床に舞い降りた。なんだろ…何かのメモかな…?しゃがんで拾い上げるとそこには書類と同じ字で文字が刻まれていた。
「…う…ぁ…。」
涙があふれて止まらない。この感情を人は何と呼ぶのだろう。
紙には1行走り書きのように書いてあった。






『綱吉 私、幸せだったよ。』






彼女からの、最初で最後の 恋文 ( ラブレター ) だった。





故文(いにしへぶみ)
(救われた気がしたんだ、そのたった一言で)




たとえ何年何十年たとうともこの日と切れの紙だけはなくなさない。絶対に。俺は強く手を握りしめた。
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暗いです…。
死ネタです。苦手な人はごめんなさい。
私もここまで暗くなるとは思いませんでした(←
タイトルを使いたくて考えた話。ちなみに普通「故」は「いにしへ」とは読みませんので注意です。

ではここまで読んで下さりありがとうございました。

2009.2.7