さっきまであんなに晴れていたのが嘘のように土砂降りの雨と、薄暗い曇天の空が続いている。
傘、持ってきてないや。
呑気にそんなことを考えながら私は応接室の窓からぼんやり空を眺めていた。
とりあえず、帰るまでにやめばいいんだけど…。
そう思った瞬間、目の前が真っ白に染まった。
「…何してるの?」
その声に伏せていた頭をゆっくりとあげた。
「ひ、雲雀さん……。」
少し呆れたような顔が私をじっと見下ろしていた。その目はいかにも怪しいものを見ましたという感じで、急に恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。今の私は部屋の隅っこで頭を抱えながらしゃがみ込んでいる、そんな人を見たら誰だって「何だこいつ?」って思うだろう。私も確実に思うはず。そんなことを考えている間に段々と雲雀さんの表情が憐れみの方向へと変化していているのを感じて(オーラというか…第六巻と言うかとにかくそんなモノが働いて)慌てて立ちあがってを「あはははー…」と無理矢理笑ってみたら、更に変な顔をされてしまった。ならどうすればよかったかなんて、考えても無駄だけど考えてしまう…結局考えた結論は、どんなことをしても変な顔をされてしまうだろうということだった。
ちらりと見えた窓の向こう側は降り続いている雨がやむ気配は全くなくて、
「…何ため息なんかついてるの?」
こっそりついたつもりだったソレはいとも簡単にばれてしまった。目聡いというか流石というか……。
「あ、いえ、何でも……ひゃぁぁぁぁあ!!!」
何でもありません。そう言いたかったのに最後まで言い切ることはできずに、外で聞こえたドーンという音と共に窓の外が白く輝いた。咄嗟に悲鳴を上げた私は足が竦んでせっかく立ち上がったのに先ほどの体勢に舞い戻ってしまった。怖い…というのあるけど恥ずかしすぎて顔があげられないよ…!!
「ふーん…雷苦手なんだ。」
「だ、だって…!!」
頭上から聞こえる声はどうでも好さそうに、でも少し楽しそうな様子でそういっていて、何故か少し悔しくなった。というか私にとっては何で雷が平気なのかがとてもじゃないが理解できない。
「だって!おへそ取られちゃうんですよ!!!!!!!」
「…は?」
おへそは普段の生活に別段必要とない部分だ。だけどそれは私たちがまだお母さんのお腹にいた時すごく頑張ってくれたんだ。彼らがいなかったら今私はこの世界に存在できていないのだ。そう考えるとなんだかその存在が愛おしく思えてしまうから人間の脳は不思議だ。
出べその何が悪い!!今ここにあること、それに意味があるんだ!!!!
「…つまり、はおへそ取られるかもしれないから雷がきらいなの?」
「そうですけど…?だって雲雀さん、雷が一回なるごとに誰かのおへそが一つ取られてるんですよ!!!!」
熱弁する私を見てさらに呆れたような、複雑そうな顔をする雲雀さん。
あれ?私何か変なこと言ったかな…?
「私、何か変なこと言いましたか?」
考えていたことをそのまま口にした。
「……」
いや、その沈黙が一番怖いんですけど。
そう思った瞬間、再び雷が鳴り響き、思わず近くにあったモノにしがみ付いてぎゅっと目を閉じた。
「ワォ、大胆だね。」
「へっ?……わ、わゎゎ!!」
しがみ付いたのはなんとなんと、雲雀さんの学ランだったみたいで今の私は雲雀さんに抱きつくような格好をしていた。慌てて距離を置こうと手を離すけれど、素早く腰に手をまわした雲雀さんがさらに私を抱き寄せるから、今度は抱きかかえられるような状態が出来上がってしまった。ちょっと待て!!この体勢ものすごく恥ずかしいんですけど!!!!!
「ひ、雲雀さんっ!!」
「…まぁいいんじゃない?君はそれで。」
「へ…?」
いわれたことの意味がよく分からなくて首をかしげると、雲雀さんは軽く笑みをうかべた。
「大丈夫、僕が傍にいたらおへそとられないから。」
抱きしめられたままそんなことを言われて、顔が赤くならない人がこの世に何人いるんだろう。
もちろん私はそんな凄い人にはなれなくて、さっきから赤くなっていた顔を更に染めて、まるで茹でダコ状態だ。
「はい…」
そんな返事しかできなかったけど、その代わりに再び学ランの裾をぎゅっと握りしめた。
守りたいモノ、
ヒト、
オモイ
「雲雀さんは雷にも畏れられてるんですね、流石です!!」
「……まあね」
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久しぶりに書いたら変なことになってしまった。
こんな話になる予定ではなかったのですが。
一応ギャグのつもりです、ちゃんとなっているかは不安…。
タイトルのモノ、ヒト、オモイについて。
モノ=おへそ
ヒト=ヒロイン
オモイ=おへそが取られると思っているヒロインの考え
という感じです。
雲雀さんこれから雨の日は大変ですね。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
2010.6.20