二人をつなぐ。

ずっと小さいころから一緒にいた幼馴染は俺よりずっと強かった。
喧嘩とかじゃなくて、精神的に。
ダメツナと苛められて泣いている俺を励ましてくれたり、時には相手を追い返してくれたり。
もともと面倒見がよかったんだと思う。
勉強を教えてくれたり、一緒に遊んだりもしてたから。
そんな日々の繰り返しの中に俺と幼馴染――は当然のようにいつも一緒にいた。
















「終わった?」
「ごめん、まだ…。」
6年2組、小さな机といすが並ぶ教室に俺とはいた。
宿題だった大量のプリントをやっていなかった俺は担任に終わるまで帰っちゃいけませんと言われていた。
そんな俺に付き合って一緒に残ってくれている
日が沈みかけてだんだんと教室も暗くなってきた。何だかとても悪いことをしている気がする…。
「ごめんね、。先帰ってもいいのに…。」
「ううん、私も宿題してるからいいの!それに一人で帰るのは寂しいから。」
「…ありがとう。」
ずっと一緒にいるけどこういう所は相変わらずだ。はいつも他人を一番に考える癖がある。
でも決してそれを表面には出さない。
正直、すごいと思う。俺にはできない。
だからせめて、そんなのためにも、俺にできることをしていかなくちゃ。
「あと一枚なんだ。もう少し待ってて。」
「うん、がんばって!」
今の場合だと、このプリントを終わらせることだ。
俺は意識をからプリントに移して、問題を解き始めた。












「私こんな暗い中帰るの初めて!!」
「…うん、俺も。」
最後のプリントがやけに難しくて解くのにかなり時間がかかってしまった。
そして気がつけば外は真っ暗。
月と星がキラキラと輝いていた。
寒くない?手袋してないみたいだけど。」
「あー…手袋今日の朝穴空いちゃって。明日お母さんに新しいの買って貰うの!」
「でも、今は寒いんじゃない?」
「…ま、ちょっとくらい平気だよ。」
あ、今ごまかしたな。
「でも最近風邪気味って言ってたよね?俺の貸すよ。」
「えぇ!いいよっ!!!」
そんなを無視して俺は手袋をはずしての手の上にのせた。
その手はとても冷たくて。
もっと早く気付けばよかったと後悔した。
「はい。」
「ツナって妙なところで世話好きだよね。ありがとう。」
世話好きはの方じゃないか。
いつも俺ばっかし世話されてるんだからたまには頼ってほしい。
は俺の手袋を付けた。
そして俺の手を握ってきた。
「私だけ暖かい思いするのは嫌だから。こうすればツナの手も少しは温もるでしょ?」
「え、ええぇぇえぇ!!!!でもこれ、クラスのやつとかに見られたら!!!!」
「大丈夫だよ。暗いし!見えない見えない!!!」
なんてアバウトだ。
そう押し切られて仕方なく握られた手を握り返した。
手袋の柔らかい感触との微かなぬくもりが伝わってきてとても心地よかった。
「…それに、ツナが寒くて凍ったらいけないからね。」
「こ、凍らないよ!!ちょっと!納得するように一人で頷くのやめてよ!!」







「ツナっ!!!」
手をつないだまま、二人で帰り道を歩いているといきなりが声を上げた。
「え、何?」
「見て!ツナ空見て!!!!」
「空…?」
暗くて何があるのかよく分からない。
あると言えば月と星位だ。
「あれ!オリオン座だよ!!」
オリオン座?オリオン座って確かこの前理科の授業で習った冬の星座とか言うやつ…?
の指さす方へ視線を向けるが星がありすぎてどれがオリオン座なのかさっぱり分からない。
「…どれ?」
「あの3つ星が並んでるの。…見えた?」
「んー、んー?…!もしかしてあれ!?」
「うん!たぶんそれ!!」
教科書で見る形と同じだった。
ただ実際のものは意外と大きくて俺もも必死に上を見上げた。
「すごい、俺初めて星座見つけた!」
「私も!!」
嬉しくて、嬉しくて。
冬の夜空に二人のはしゃぎ声が響いた。





























が倒れたのはそれから少し後のことだった。
授業中いきなり苦しみだして倒れてしまった。
そのまま救急車に乗って運ばれていくを、俺は遠くからただ心配することしかできなかった。







は病気だった。
病名は長くて難しくてよく分からない。
ただ日本では治せないような、重い病気だと教えてもらった。
何で気付かなかったんだろう。
あんなにそばにいたのに。
俺がもっと早く気付けば、軽い症状で済んでいたのかもしれない。
そう思っても今はどうすることもできなかった。


の病気を治すため、家は医学の進んでいるアメリカに引っ越すことになった。
日本に戻って来れるか、分からない。
また会えるのか、分からない。












「ほら、もう泣かないでよツナ。」
「う…ご、ごめん。でも…」
がアメリカに行く日、俺は学校を休んで見送りに来ていた。
一番苦しいのはだから、俺が泣いても仕方ないから、絶対泣かないって思ってたのに。
どんなに思っても、涙は後から後から溢れてきた。
「ごめん、俺、泣いてばかりで、弱くて。つ、強かったらもっと、、守れたかもしれないのに…。」
声を詰まらせながらなんとか言葉を紡ぐ。
いつもこれだ、俺は弱いところばかり見せている。


そんな俺には微笑んだ。
「弱さを見せないことが…強いわけじゃないよ。本当の強さってもっと別の所にあると思うから。 だから泣くことはそんなに恥ずかしいことじゃないよ。…だけど今は泣きやんでほしいな。」
その微笑みはどこか、哀しげだった。
「私は、最後にツナの笑った顔が見たいから。」
そんなこと言ってほしくなかった。
そんなこと…
「最後なんて…最後なんて言うなよっ!!!」
ギュッとを抱きしめた。
震える体、同じくらいの身長なのにとても細かった。
「絶対帰ってきてよ。俺ずっと待ってるから。病気なんかに負けちゃダメだよ!!」
また会いたい。
これで終わりなんて、そんなの嫌だ。
俺の頭はそれでいっぱいだった。











「…うん。」










は涙声だった。










ずっと小さいころから一緒にいた幼馴染は俺よりずっと強かった。
喧嘩とかじゃなくて、精神的に。
ダメツナと苛められて泣いている俺を励ましてくれたり、時には相手を追い返してくれたり。
もともと面倒見がよかったんだと思う。
勉強を教えてくれたり、一緒に遊んだりもしてたから。
だから俺はずっとは強いって思っていたんだ。
だけど違った。
俺が気付いていないだけではこんなにも弱くて小さかった。
たった一つの病気にも勝てないほどに。
だから、俺が守らなきゃいけなかったんだ。
俺が、強くならなくちゃいけなかったんだ。






















がアメリカに行って4年。
俺は高校生になっていた。
あの頃にはいなかった友達もたくさんできた。
毎日が騒がしくて、大変で、でも楽しかった。
ただそこにがいないことを除いては。
楽しい日々、でも何かが足りないと思ってしまう。
彼女がいてくれたら、と。



幸いなことに、が死んだという報告はない。
というか、アメリカに行ってからの連絡は一度もなかった。
治療に専念するから手紙も電話もできない、行く前にそう聞いてたから当たり前なんだけど。
最初は寂しくて辛かった。
でも慣れって恐ろしい。
今ではふとした瞬間に、のことを忘れている気がする。
このままでは何時かのことを完全に忘れてしまうのではないか、そう思ってしまう。
それだけは嫌だ。
絶対に忘れたくない。











「十代目!見てください!!」
獄寺君がそう言うのでふと前を見ると彼は暗くなった空を指さしていた(あれ、こんなこと前にも…)
「オリオン座ですよ!」
「獄寺、お前ロマンチストなのなー。」
「う、うるせぇ野球バカ!!そんなんじゃねぇよ!!!!!!」
そんな友人の会話が聞こえた気がするがすり抜けていった。
オリオン座。
あの日、と二人で見た星座だ。
あたりまえだけどオリオン座は4年前と同じ姿で、同じように俺を見下ろしていた。
ふと、の言葉が頭をよぎった。それと、笑顔も。


『ううん、私も宿題してるからいいの!それに一人で帰るのは寂しいから。』


『ツナって妙なところで世話好きだよね。ありがとう。』


『私は、弱さを見せないことが…強いわけじゃないと思うよ。本当の強さってもっと別の所にあると思うから』


『ツナっ!!!』


オリオン座の下で、俺たちは繋がっているのだろうか。
ねえ、俺のこと覚えてる?
頬に冷たいものが流れていくのを感じた。












「どうしてオリオン座って言うのか知っていますか?」
俺たちの後ろにいつの間にか立っていたらしい人が言ってきた。
顔は…暗くてよく見えない。
獄寺君が威嚇していたが気に留めず俺は話しかけた。
「知らない。教えて。」
その人が、笑った気がした。
「ギリシャの神話の話なんですけどオリオンっていう巨人の猟師がいたそうです。 でもオリオンはとても乱暴だったため、母神ガイアのサソリによって毒殺されてしまい、そのまま星座になったと言われています。 ほら、冬の星座ってさそり座もあるでしょう? そのサソリはオリオンがまた暴れないようか見張っているんですって。」
「さそりかー。おめぇの姉ちゃん見てーだな。」
「なんでそーなるんだよ!野球バカ!!!!」
「ま、まあまあ二人とも。でも知らなかったな。オリオンってそんな人だったんだ。」
ちょっと怖いね。
そう言うとその人は少し哀しそうだった。
「嫌いになってしまいましたか?」
「え…。ううん、嫌いになんて、なれないよ。」
たとえどんな由来だろうと知ったこっちゃない。
だってオリオン座は俺が初めて見た星座だ、それは何があっても変わらないから。
「よかった…。私もオリオン座、好きですよ。」
その人が近づいてきた。
だんだんと輪郭が見えてきた。
ずっと気にかかっていた。
どこかで聞いたことがある声だ、と。
「大切な人と見た、大切な、星だから。」
ね、ツナ。そう微笑む笑顔は俺が大好きな、あの笑顔だった。


























オリオン
(暗闇の中でもあなたを探す唯一の目印。ほら、また会えた)












駆け出した俺は相変わらず細い彼女を抱きしめた。











+++++++++++++++++
君と出会えたキセキが今僕に生きている意味を教えてくれたから。





初綱吉夢。
中島美嘉さんのORIONをイメージして書きました。
学校帰りにオリオン座を見つけて思いついた話。
ツナ視点難しかった…。
キャラクター絶対つかめてないよね…。はい、勉強します。
ギリシャ神話はwikiで調べました。
オリオン座結構好きなのにこんな話なのかとショックを受けました;なんか…ねぇ。
でもせっかくなので入れてみた(←


ではここまで読んで頂きありがとうございました。

2008.11.19