まるで砂漠のようだ。
だけど足に直接感じる刺激は間違いなく「痛み」
何をばかなことをしているんだと身体が脳に信号を送っていた。
命令に従うのは馬鹿がすることだ。
私は自分の信念に基づいていきたいから。
自分が正しいと思う道を生きていきたいから。
「それが君にとっての正しい道かい?」
その声に導かれるように振り向くと、すぐ後ろに恭弥がいた。
「ならよっぽどおめでたい人間だね、それともドMかい?自分に痛みを与えるのが好きだなんて。」
ため息をつきながらそう言った。
確かに、傍から見たら確実に変な人なんだろうなって自分でも分かってる。
長袖ではあるけれども薄いワンピース一枚で、地面を埋め尽くしている雪の上に裸足でたっている人なんて、きっとこの世界に私しかいない。
幸いにもここには私と恭弥しかいないからいいけれど。
「だって……」
少しだけ、言葉が詰まる。
私の本音を、恭弥は受け入れてくれるだろうか。
「自分が生きていることを知るには、痛みを感じるしかないでしょう?」
戦争が続く、続く。
友達が、仲間が、目の前にいるたくさんの人たちが、次々と倒れていく。
その中にぽつんと放り込まれた自分は、果たしてまだ生きているのか。
もしかしたらもう死んでしまっているのではないか。
自分でも気付かないうちに幽霊になってしまったのではないか。
そう思うと怖くて仕方がなかった。
「…馬鹿だね。それも本格的な。」
呆れるように、だけど突き放すものじゃない。
優しい木漏れ日のように、恭弥の声は私の心に落ちてきて、波紋が広がる。
暖かいと、感じた。
「あ……」
暖かいのは心だけではなかった。
ふわりと浮く身体、寒さに脅えてしまった感覚のない足が宙に浮くのを感じた。
気がつくと私は恭弥に抱かれていた。
世間的にお姫様抱っこといわれるそれをされたのは初めてだからなんだか変な気分。なんだかお尻の方がスポッと抜け落ちていきそうで、行き場のない手は自然と恭弥の服を掴んでいた。
そんな私を知ってか知らずか、恭弥は片腕で私の頭を胸に押しつける。戸惑いながらも素直に従う私の体は小さな音をキャッチした。
「……分かった?」
「………」
「痛みだけが生きてることを教えてる訳じゃないよ。」
どうしてなんだろう。
「この暖かさも、聞こえてくる心音も、全部が生きている証なんだから。」
ダムが崩壊したかのように体中に暖かい何かが流れ込む。
これがなんなんのか、分からない。
「…うん。」
哀しくないのに泣いたのは、これが初めてだった。
それが安心だと知ったのは、ずっとずっと後―――10年後の未来のお話。
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リハビリ作品。
テーマは「静かさ」でイメージソングは「戦場.の.メリ.ークリスマス」です。
10年後の雲雀さんと、中学生の主人公のつもりです。
暗いような、甘いような、なんだかよく分からないお話。
でも心にしみるような話になっていたらうれしいです。
2010.12.22