「うー…疲れた。」
最近は毎日のように試験、面接、試験、面接の日々…私過労死するんじゃないかなってくらいの最近のこの働きっぷり。誰か褒めてくれたっていいのに。
だけど褒めてもらうのはとりあえず試験に合格して就職先が決まってから、だよね?これで駄目だったら褒めてもらってもうれしくない。むしろ落ち込んじゃうよ…。
大学四年生、就職活動真っ盛り☆だけど私の心の中は低飛行中だ…。とにかくこんなんじゃ駄目だ。明日だって面接が二つ入ってるんだから!ここは一つおいしいものでも食べて自分を元気づけるしかない!!
ふと目に入ったラーメン屋さん、丁度いいからここにしよう。最近ラーメン食べてないから久しぶりにいいかもしれない。ラーメンはやっぱり醤油だよね。ウキウキと私はその店の中に足を踏み込んだ。








「らっしゃーい」
入った瞬間に匂う香りにお腹がぐきゅっとなった。…周りに誰もいなくてよかった。こっそりと安堵の息をつく。
お店の中は遅い時間にも関わらず活気づいていて、人気があるんだろうなと軽く想像がつく。偶々見つけたお店なのに美味しいんだと思うと嬉しくなってお腹がさらに空いてきた。
「いらっしゃいませー、お一人様で…って、?」
やってきた定員が私の名前を呼んだ。驚いて顔を上げるとそこにいたのは、
「た、武?」
幼馴染の彼だった。




「久しぶりだなー、醤油でいいか?」
「うん…よく覚えてるね。」
「ははっ、俺が醤油ラーメン好きになったのはのせいだからな」
「なにそれ、感謝してよね。」
「はは、わかってるって。」
軽く笑いながら醤油一つ!と叫びながら厨房に入っていく武。大学生になってからここでバイトしていると聞いて驚いた。わざわざこんな所でバイトなんてしなくても武の家はお寿司屋さんなんだからそこの手伝いでいいじゃない、そう言うと経験って大事なのなと言われてしまった。
置かれた水をチビチビと飲みつつ横目で武を覗き見る。さすが家の手伝いをしていただけある、働く手つきはとても手慣れていて同僚と笑って話している姿に思わず見惚れてしまった。
(かっこよくなったよなぁ…)
微かに体温が上昇するのが感じられた。
(って、違う!間違えた!!大きくなったなぁだよ!!)
自問自答のそれにプルプルと頭を振るとカウンター越しに大丈夫かと武に言われた。なんでもないと小声で呟きながらも視線を合わせることはできなかった。少し不思議そうな顔をしながらも向こうに行く武に安堵した。

幼馴染という関係はひどく曖昧で近くにいるのか遠くにいるのか本当に分からない。昔はすぐ隣にいたはずなのにいつからか会う回数が減って気付けば背を追いこされて声も変わっていて。まるで知らない人になってしまったのではないかと思えて少し怖かった。だけど武はいつも笑ってくれていたから。やっぱり武は武なんだと会う度に安堵した。
だけどこうやって改めてみると流石にいつまでも同じとはいえない。もう二十歳過ぎてるんだよね、私たち…昔は早く大人になりたいと思っていたのに、なんだか複雑な気分。
「ほい、おまちどーさん。」
コトリと目の前に置かれた醤油ラーメン。すごくおいしそう。お腹が早く早くとラーメンを求めていて思考を一時中断して手を合わせた。
「…頂きます。」
「はは、律儀だな。」
武は隣に腰掛けながら笑った。
「お店…いいの?」
「あぁ、どっちにしてももう俺終わりだから。」
「ふーん。」
あ、このチャーシューおいしいな。そう思いながら音をたてて麺を吸いこんだ。見た目通り美味しいラーメンは人気があるのもなるほどと納得がいく。なんていうのかな、一言で言うなら…幸せになれる感じ?うん、それっぽい。
「こんな時間まで何やってたんだ?」
「就活」
「あーそっか、4年生だっけ。」
「…うん。」
私の回答が短いのは決して愛想がないからじゃない。ラーメン食べながらだから。決して恥ずかしいからじゃない。…何で私こんなに素直じゃないんだろう…。
だけどそんな態度を気にしていないのか気付いていないのか、武は私にちょくちょく質問してきたり最近の話をしてきたり。とにかく話題が尽きることはなかった。
そう言えば昔からこんなペースだったかも。武が私によく物事を聞いてきたり話してきたり。昔から武の話は面白くて聞くのが大好きだったから細かいところまでよく覚えていてそんな自分がなんだか誇らしかった。
そして10分くらい経った後、ようやくラーメンを食べ終わった私を見計らって武は腰を上げた。机に置いてあった伝票をするりと掻っ攫って行く。
「え、ちょっと…」
「おごってやるからさ、一緒に帰ろうぜ。」
武は入口で待ってろと言いながら店長俺上がりまーすと叫んでスタスタとどこかへ行ってしまった。私はポカンと口を開いて数秒そこで停止していた。え、どういうこと?
とりあえず武の言うとおり入口で彼を待つことにしよう。ゆっくりと腰を上げた。






☆  ★  ☆





時計を見るともう10時過ぎ。普段ならとっくに家についている時間だった。ぼんやりと空に浮かぶ月を眺めると心が和やかになりそこでようやく緊張しているのだと気がついた。なんでって思うけどよく考えれば当たり前…なのかな?
武と一緒に帰るのはいつ以来だろう。昔は毎日のように一緒に帰っていたのに今ではたまに玄関ですれ違う程度。久しぶり過ぎて嬉しいような気恥ずかしいような…こんなの今更のはずなのに。
「よ、待たせたな。」
「うわっ!い、いつ来たの?」
いきなり現れた武に肩を揺らして驚いた。辺りが暗いのもあると思うけど気配も全然なかったんだよ…!!
「今だけど…何驚いてんだ?」
「ううん!!なんでもない!!」
「そっか?なら帰ろうぜ。」
「え、ちょっと!!」
そう言って私の手を握り歩き出す武に動揺しながらも足を動かす。抵抗の声を上げても離そうとしない態度に内心ため息をつきながらもどこか嬉しかった。
武には見えないよう少し俯いてこっそり笑みを漏らした。



「なぁ。」
「ん…何?」
「就職活動、してんだよな…?」
「そうだけど?」
「…………」
歩きながらの会話。なんでもない他愛もない話のはずなのに返事はなかなか帰ってこなくて不思議に思った。私何か変なこと言ったかな?
「そのさ…俺が就職先見つけてやってもいいぜ。」
「…………は?」
思わず足を止めた。それに従って前を歩いていた武の足も止まる。近くの線路を電車が大きな音をたてて走っていくのが聞こえた。
武は依然前を向いたままで私に目を向けようともしない。どういう事なのかさっぱり分からない。つまりあれですか。一緒にラーメン屋で働こうってことですか?
「悪いけど私ラーメン屋さんはちょっと…」
「はは、違うっつーの。」
困ったように笑いながらようやく私の方に向いた顔はなぜかほんのり赤かった。

「永久就職ってやつ。」

「だ…誰と?」
「もちろん、俺と。」



「え、ええぇぇぇぇぇぇえ?」
脳内と言うか顔の温度が急上昇して湯気が出そう。ていうか何いきなり。どういう意味で言ってるか分かってるよね?え…永久…つまりそれって結……えぇぇぇぇ!?
「おい、。大丈夫か?」
「……ダ、ダイジョウブ…?」
「…駄目だな」
「って!誰のせいだと思ってるのよ!!大体順序がいろいろ違うでしょ!!」
それって順序がちゃんとしてたらいいよっていっていることだよなあ。そう自分で突っ込みながらも武に言い募った。冗談だよね、最初はそう言いたかったけど彼の顔を見ればそれが冗談でないことなんて一目同然で。お互いに真赤になっている私たちは傍から見たらきっと怪しいんだろうなとどこか冷静な頭で考えた。
「いやだってさ。俺だっていろいろ考えたんだけど…もう直ぐイタリアに行かなくちゃならなくて…」
「…イタリ…ア……?」
言葉を失った。武がイタリアに行ってしまうなんて全然知らなかった。そりゃ久しく合っていなかった訳だから当たり前といったら当たり前なんだけどそれでも私は小さい頃の彼も知っているから彼のことなら何でも知っていると思っていて。そんな訳ないって分かっていたはずなのに。
「イタリアに行くのは別にいいんだ。なんか面白そうだし。だけどと会えなくなるのは嫌で……だったらいっそのこと連れてっちまえばいいと思ってさ。」
だけど、そう思っていたのは私だけではなくて武もだったって…思ってもいいのかな?物事を自分のいいように考えるのはあまり好きじゃないけど…これは、私がずっと武のことを好きだったように武も私のこと好きだったって…思ってもいいってこと?
「何時かちゃんと言おうって思ってたのに結局こんな感じになってごめん。だけど俺はが好きなんだ…本当だぜ?」
温かいものが頬を伝った。それが涙だと知ったのは武の慌てた顔を見た後であまりの慌てっぷりに思わず笑ってしまった。
数分間笑い通していつの間にか流れた涙も消えていてようやく落ち着いた頃、私は一つ息をついて武の顔を見た。
「じゃあ就活しなくちゃね。」
「は?」
訳が分からないという顔をしている武にほくそ笑んでやった。そしてこほんと咳払いをする。
「並盛大学4年、です。山本武のお嫁さんになりたくてココを志望します。」
ポカンとした顔の武だったけどすぐに私の意図を悟ったみたいで口が少し笑っていた。


「…合格。」


再び線路を電車が通った。だけどその音はもう二人に耳には届かない。
夜の街に二人の笑い声が響いた。








味噌よりより醤油

(醤油よりも、君)








「ってことで今から二人でイタリア語勉強しようぜ!」
「いいけど…出発っていつなの?」
「ん?来月。」
「近っ!!間に合わないよ!!!」
「まぁまぁ何とかなるって!あ、式は日本で挙げようぜ。」
「余計間に合わないよ!!!」



これから毎日こんな日々が続くのかと思うと嬉しいのやら悲しいのやら…とりあえずこのマイペースを直せるよう妻として頑張りたいと思います。
















+++++++++++++++
そんな訳で山本ハッピーバースデー。

書いてる本人が一番恥ずかしいですこの超甘甘夢。
以前書いたのと同ヒロイン。ラーメン屋さんでバイト〜という設定だけだったのに…あれ、何で結婚するのこの二人…
でもこういうのも山本っぽくていいのかな?と思ったり…。
ここまで読んで下さりありがとうございました。

2010.4.24