「ルートってなんでこんな形なんだろう?」
私のその呟きに前にいた三人組がきょとんとした顔をこちらに向けた。
いや、正確に言うとツナはきょとんとした顔で獄寺君は呆れ顔、山本君はいつものニコニコ笑顔と三人とも違ってたけど。
1ヶ月前の席替えでツナと前後になってから話すようになったこの三人。最初は各々が個性的すぎてなんでこの組み合わせ?って思ってたけどいつの間にか逆にそれが合っているような気がして私もすっかり仲良くなっていた。
そして今、丁度数学の後の昼休み。私はお弁当を食べながらじっとさっき習ったばかりの”記号”を凝視していた。
ルートと呼ばれるその記号が私には暗号に見えて仕方がない。だって…何コレ。何この形?一体どうやったらこんなのが思いつくんだろう。ルート…さんが考えたのかな?一度会ってみたいなぁ、握手したいなぁ。
そんなことをぼんやり考えながら卵焼きを口に入れた。うん、やっぱり卵焼きは醤油に限る。
「はは、はおもしれーな!!」
「だって思わない?このカックンカックンした形。よく思いついたよね。」
「んなのどうしてリンゴが赤いんだって聞いてるのと同じだろーが。馬鹿かてめぇは。」
「それはそれでまた違う問題だと思うけど。」
「ご、獄寺君、俺もそれはちょっと違う気が…」
「だよね!やっぱツナはいい人だ―!!」
「てめっ!十代目に抱きつくんじゃねぇ!!!!」
だんだん話題が逸れていって結局問題が解決することなく昼休みは幕を閉じたのだった。
「あー…なんだかモヤモヤする。」
そう言いながらも動かす手は止めない。
時はすでに放課後で教室には私以外誰もいなかった。私だって普段なら今頃家に帰ってる時間なのに…机には山積みのプリント。風紀委員であるならまだしもそうじゃない私が何が嬉しくてこんなことしないといけないんだ…。
HRの時、今日の日直はだったな、手伝ってほしいことがあるから後で職員室に来てくれ。そう担任に告げられ渡されたのがこの山だった。何のいじめですか…。ツナたちに手伝って貰おうと思ったのに教室にはツナどころか人っ子一人いなくて。
皆帰るの早いよ…がっくし頭を垂れながら渋々それに手を付け始めてから約2時間…。
「お……終わったぁ」
頑張った…頑張ったよ私!定期試験で100点取った気分だよ!!頑張りすぎて少しおかしくなった頭でそんなことを考えながら、だけどさっさと提出して帰路につこうと筆箱を鞄へ収める手は止まらない。
すっかり暗くなったな…と何気なく外を見た時だった。
「………ウソ。」
そっか、今日は付いていない日なんだと納得した。
ザ―――――……
おかしいな…5限目の体育の授業の時はあんなに晴れていたのに。みんなで楽しくバスケをしたのが遠い昔のように思えた。下駄箱で呆然と雨空を見上げている私はきっと周りから見れば滑稽極まりないんだろう。
今日は忌まわしき日直の日だったから朝急いで家を出た…つまり天気予報なんて全然見てなかった。そんな訳で傘なんかもちろん持ってなくて、うーん……どうしようかな。
結局選択肢は濡れて帰るしかないんだけどなかなか決心がつかなくて、さっきから前に踏み出せずにいる。けどいつまでもこうしていても帰る時間がどんどん遅くなっちゃうだけだし雨は全然やみそうにないし…(むしろ強まってない?)
ええい!女は度胸と根性!!、行きます!!
「ひゃっ!!」
意地と勇気半分で足を一歩前に踏み出した所でいきなり肩を掴まれて勢い余って後ろに体が傾く。尻もちをつくと思ったのに感じたのはやさしい温もりで。びっくりして振り返るとそこにいたのは、
「何してるの?」
「……恭弥、さん。」
呆れた顔で恭弥さんは私を見ていた。
どうやら肩をつかんだのは恭弥さんみたいで私は彼の肩に凭れ掛かっているというちょっと恥ずかしい恰好をしていた。急いで離れようとしても掴まれた肩はしっかり固定されたままで私の力じゃ到底かないそうにない。
諦めて身体の力を抜き、恭弥さんに身体を預ける。いいよね、別に…今下駄箱にいるのは私と恭弥さんだけだし。
私と恭弥さんは所謂恋人同士というやつでだけどそれは殆んど知られていない。というのは公表したらいろんなチンピラに絡まれて面倒くさい(らしい、恭弥さんが)からだとかなんとか。唯一知っているのは草壁さんくらいかな…。私としてもチンピラに絡まれるのは嫌だからこれでいいと思ってる。
何より遠まわしだけど恭弥さんが私を守ろうとしてくれているのが伝わってきて嬉しいんだ。
「えっと…帰ろうかと。」
「傘は?」
「わ、忘れました…。」
「今日降水確率70%だったよね。」
「…メンボクナイデス。」
全く。物々呟きながら恭弥さんは手に持っていた黒い傘を開いた。そしてそのまま私の手を引いて傘の下に二人が綺麗に収まる。
「え…」
「さっさと歩いて。」
「送ってくれるんですか?」
あの恭弥さんが!?そんな天と地がひっくり返るようなことがあっていいのかな?
「君の滑稽な姿があまりにも不憫だったからね。」
「…さいですか。」
一体いつから見てたんだろう。握られた手は冷たくて外にいたんだなと感じられた。
傘を持つ恭弥さん、所謂これは相合傘というやつでなんだか気恥かしいような…でも恭弥さんは気にした様子もなく歩くから寧ろ気にしたら負けと思って私も歩を進めた。
ふと前を見ると他の人も傘をさして歩いている姿がちらほら見えた。まあ雨が降っているから当たり前なんだけど…。
その情景が頭にこびり付く。
傘の下
ちっぽけな人間
雨から守ってもらっている。
「………あ、」
「何?」
「あ、何でもないです!ちょっと思い出しただけなんで。」
「…まぁいいけど。さっさと帰るよ。」
「はい。」
何となくうれしくなってぎゅっと握る手を握り返した。
(なんだかルートの下にいるみたい)
昼休憩に話したことがよみがえる。
黒い傘は曲がりくねったあの記号で中にいる私たちは数字そのもの。
きっとルートは中にいる数字たちを一生懸命何かから守っているんだろう。何をかなんて想像もできないけどきっとそれはルートにとってすごく大切なものなんじゃないかと、そう思った。
一緒なんだ、人も傘もルートも。
みんな何かを守りたくて、そしてその何かを一生懸命守りながら守ってもらってる。
それはなんだかとても素敵なことのように思えて胸がポカポカした。
私も…
「恭弥さん。」
「ん?」
「いつもありがとうございます!!」
何かを守れているのかは、わからないけど。
だけどいつも守ってもらっているから。
√の下で
隣に恭弥さん、上に傘、私は色んなものに守られて、そして生きている。
「…何、襲ってほしいわけ?」
「へ?い、いえ!!!そういうわけじゃなくてっ!!!!!」
++++++++++++++++++++
去年ゆいちゃんのバースデーに押しつけたもの。
せっかくなのでUPしました。
全キャラだそうとして断念してせめてと思って三人組だけ出してみた…。
一応雲雀さん夢…のはず。最後無理やり甘くした感がありありと出てるけど。
ルート習うのって中2くらいだよ…ね?
よく憶えてないけど何だこれは?!って思ったのはすごく印象に残ってます。
本当になんであんな形してるんだろう…。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
2009.12.29
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