01.



「………あ、」
学校から帰って数十分後、店番をしているとぽつぽつと雨が降り始めた。
こりゃ今日はお客さん来ないだろうな…といってもいつも少ないけど。そもそもお店自体も自営業だから小さいし偶に思い出したかのようにふらりとお客さんが来るくらいだから仕方ないんだけど。あ、でも近所のスーパーに提供していたりするし、常連さんもいるからそこそこ繁盛はしていて生活に困ることはない。
ってまるで自分のお店のように言っているけどここは私のお店なわけではもちろんなくて、手伝いしてるだけなんだけど…それでも皆にこの花屋さんが好かれているのは嬉しくなるもんなんだ。
例えば私が育てた花を嬉しそうに持って帰っていく人たちを見たりしたらそれはもう嬉しくてたまらなくなる。もちろん種を買ったのは私じゃないし値段をつけたのだって私じゃない。それでも私が関わった物が少しでも色んな人を幸せにできるんならそれはすごく幸せだと思うから。

「雨…強くなってきたな。」
開放的な店の造りのため雨の湿気と少し下がった気温を肌で感じた。
早く帰って来てよかった…今日はHRなかったからそのおかげだな。ありがとう先生。
そう思いながら空を見上げていると遠くに見知った顔を見つけた。
(…あれ、は……)
同じクラスで、野球部で……えーと、名前は…い、井上?違う違う、なんか漢字一文字だった気がする。
「あ、泉君だ!」
ポンっと手を叩きながらそう思い出した。うん、間違いない。テストの時とか名前書くの楽そうだなーって思った覚えがあるもん。
その泉君がこの大雨の中傘もささずに自転車をこいでいた。
「た、大変だっ!!」
このままじゃ風邪ひいちゃうよ!それに結構強い雨だから滑って転ぶ可能性だってある。自転車で転ぶのは…痛い、よね?昔私が転んだ時はそれはもうすごい擦り傷ができたから。
泉君は帰宅部の私と違って運動部…しかも野球部なんだから怪我なんてしたら大変だ!!私は近くにあった傘を開くと急いで店を出た。
















「なんか…いろいろ悪ィな。」
「いや、寧ろ私がごめんね…。」
お互いタオルで頭を拭いた。何となく目を合わせられないのはさっきの失態からだ。
泉君を見つけて正義のヒーロー気分で助けに行った私はあろうことか彼の目の前でツルリとすっ転び泥まみれになってしまった。そして助けるどころか逆に助けられ、とりあえず雨宿りということで店内に入り今この状況。おばあちゃんが持って来てくれたタオルで濡れた個所を拭き、ホットココアで体を温めていた。
あれだけ転んだら大変だって言ってたのにまさか自分が転ぶなんて……うぅ、かなり恥ずかしいよ。不幸中の幸いなことは軽い擦り傷で済んだところだろうか。…お風呂に入った時痛そうだけど。
ってバイトしてたんだ。」
キョロキョロとあたりを見回しながら泉君は感心したようにそう言った。
「え、あっと、ううん!ここ私のお祖母ちゃんがやってるお店で。いつも学校終わったら店番交代してるんだ。」
「ふーん」
えらいな、そう呟かれて少しだけ照れた。
そもそも手伝うようになったきっかけはお祖母ちゃんが仕事中転んでどこかの骨を折ったことからだった。…もしかして私がよく転ぶのは血筋的なものなのかな?ってそうじゃなくて、お祖母ちゃんももう年なわけだからあんまり無理してほしくなくて。だからえらいとかそういうこと考えたことなくて義務みたいな感じだから、そう言われて少し嬉しかった。
「ていうか泉君私の名前よく知ってたね!話したことないよね?」
「は?も俺の名前知ってんじゃん。」
「うっ、そ、それはそうだけど……。」
思い出すのにかなり時間がかかりましたなんて言えないよ…。
そんなことを考えているのがお見通しらしい泉君は少し呆れたような顔をした。
「クラスメートの名前くらいちゃんと頭にいれとけよ。」
「…メ、メンボクナイデス。」
「つっても俺も女子は半分くらいしか覚えてねェけど。」
高校生になってまだ1ヶ月位しか経ってないんだから無理だよなー、そう言って泉君は笑った。だよねと私もつられて笑う。
「でもこれでのことは完ぺきに憶えたぜ。」
「そっか、それは嬉しい情報だね。」
「すっ転んで泥まみれになった女子。」
「え、その覚え方は嫌だ…!!!」
どうせ覚えて貰うならもっといい印象がいいよ!!お祖母ちゃんの手伝いをしてるとか…。
そんなあせあせしている私を見て泉君は体を曲げて笑っていた。
しばらくキョトンとしてそれを見ていたけど、しばらくしてやっと自分がからかわれていたことに気がついた。
「い…泉君意地悪だ!!」
「そりゃどーも。」
「褒めてないし!!」
ギャーギャー言うと泉君はますますおかしそうに笑ったから、可笑しいことなんてないはずなのにつられて私も笑ってしまった。



そんな感じでどれくらい話しただろうか。
気付けば空はさっきよりも明るくなっていて雨も随分小降りになっていた。
「これなら帰れそうだな。」
「でもまだ降ってるから…よかったら傘使う?」
差し出す傘はさっき私が(すっ転んだときに)持っていたもの。
「いいのか?」
「うん。あ、でも返してね。」
「当たり前だっての。」
「ならいいけど、じゃあ気をつけてね。」
「まぁじゃないからすっ転んだりしねェよ。」
「まだいうか―!!」
「はいはい、じゃあまた学校でな。」
そう話しながら泉君は傘を開いて止めていた自転車を押して歩き始めた。

―。」
「ん?」
3歩、雨の世界へ歩いた泉君が立ち止まってこちらを振り返る。





「いろいろサンキューな。」





雨上がりの

の笑顔






「うん!」




これはこれからの始まりの物語。
この先に待ち受けているものをまだ誰も知らなかった。
















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甲子園の影響で始めてしまった泉君連載。
泉君の口調がイマイチ掴めてません…。
終りの方は何だか暗い雰囲気になってますが他の連載に比べたら断然明るい話になる予定…。
目指せ普通の女の子がこの連載のテーマです←

ではここまで読んでくださりありがとうございました。

2010.4.3