
02.
「ありがとうございました―」
お店を出ていくお客さんににっこり笑ってそう言った。
今日は日曜日で私は朝から店番をしていた。平日は仕事帰りのお父さんたちが偶に立ち寄ったりするけど、休日は休日で親子連れだったり大学生くらいの女の人だったり年齢層の幅が広がって面白い。…ただ人が来るのは2時間に一人くらいのペースなんだけど。
「う―…暇だ……。」
朝の7時から店を開いて早5時間。すっかりお昼時になったけど来たお客さんの人数は片手で収まるくらい。花の手入れとか店番の他にもすることはいろいろあるけどそれも全てやり終えてしまい正直暇、というかもう暇すぎて、合間にやろうと持ってきた勉強道具も数時間前にすっかりカウンターに放置されてしまった。
お祖母ちゃんは今日老人会だっけ?なんかそんな感じの集会があるから今日一日中店番頼んでもいいかいと言われて任しとけ!と言ったのは自分なのに…。
時計を見ると11時半。少し早いけどお昼ご飯にしようかな…午後からのことは食べながら考えよう。
そう思い至って腰を上げた瞬間、店の正面に人影が現れてお客さんが来たことが分かった。せっかくご飯にしようと思ってたんだけどな、まぁいいか。少なくとも暇で無くなるんだから。
「いらっしゃいませーって、泉君?!」
「よっす。」
そこにいたのは自転車に跨った泉君で。びっくりしたけど見知った人が来てくれるのは暇を持て余していた私にはとてもうれしくて思わず笑顔になった。
「びっくりした、どうしたの?部活は?」
「今日は午後から。だから傘返しに来た。」
手には確かに私が一昨日貸した傘があって。
「学校でよかったのに。」
「どうせ今から学校行くからついでにと思って。」
あ、そっか。泉君にとって私の家は通学路に当たるんだもんね。ん、でも今からって…。
「…お昼ごはんはどうするの?」
普通はお家でご飯食べてから行くと思うけどお昼を食べ終わったにしては早すぎる時間だよね?
「コンビニで買って食べようかと…っておふくろみてェ。」
「なっ?!失礼だよ泉君!!!」
「いや本当のことだから。」
「そうかな…あ、だったらさ!!」
思いついたのはごく単純なこと。きっと私にとっても泉君にとってもプラスになる素敵なことだと思う。
「一緒にご飯食べようよ!!」
「おじゃましまーす。」
「どうぞー」
お店に『準備中』の看板を下げて私たちは店の裏にある家へ入った。ごく一般的な家の造り、変わっていることと言ったらやっぱり花が多いってところかな?
「本当にいいのかよ、ごちそうになっちゃって。」
「うん。私も一人で食べるのは寂しいなって思ってたから。」
泉君をリビングのソファに促してお茶を出した。ども、そう一言いい口を付けていた。
「…このお茶何?初めて飲むけど。」
「んーと…あ、ほうじ茶だよ。嫌いだった?」
「いや、おいしい。」
「ならよかった。あ、泉君チャーハン嫌い?」
「いや、基本何でも食べるぜ。」
「オッケー。」
そんな取り留めのない会話をしながら炊飯器からご飯を出す。炊き立てのご飯はホクホクと湯気を出していた。
「ってが作るのかよ。」
「うん、基本家で料理するのは私だから。」
「へ―…すげぇな。」
「そんなことないよ。」
笑ってそう言いながら料理を作る手は止めない。
チャーハンは簡単だしすぐできるからよく作る。私の十八番の料理だ。
「親は?」
「お父さんもお母さんも海外出張だから…今はお祖母ちゃんと二人暮しなんだ。」
本当なら親について行くのが普通なのかもしれないけどお父さんはアメリカ、お母さんはフランスと二人とも別々のところにいるから片方について行ったら片方が拗ねることになる。だから私は残ることを選んだ。
「…寂しくねェ?」
「うーん…最初は寂しかったけどもう慣れちゃったから。」
中学のころからこの生活なのだ。今ではむしろ家に親がいる方が変な気分になってしまう。
それにそのお蔭でお祖母ちゃんも一人暮らしではなくなって親も私も安心できるから結果オーライだと思う。
「なにより帰って来た時外国の話聞けたりお土産貰ったりできるし!」
「…がめついんだな。」
「そんなことないもん。」
まあ確かにいろんな国を飛び回る二人によって部屋中いらないものだらけになったこともあるけど。
自由の女神の模型を持って帰って来た時には顔が青ざめたなあ。
「よし、できたよ。」
話しているうちにチャーハンは出来上がって心持ち泉君のお皿の方が多くなるように盛り付けた。
だって男の子だし、今から部活するんだからしっかり食べて貰った方がいいよね。
「おぉ、うまそ―!!!」
泉君の前にお皿を置くと目を輝かせてそう言った。
「じゃあいただきます!」
「いただきまーす!」
そういってスプーンを手に取り二人とも黙々とチャーハンを食べた。
「ウマい。」
「ありがとう。あ、お茶お代わりいる?」
「ん。」
泉君のコップとついでに自分のにもお茶を入れてまた食べる。
会話はほとんどなくてスプーンと食器が当たる音が響いた。
それがひどく心地よかった。
「ごちそっさん。本当にありがとな。」
食べ終わって少しした後、泉君は部活に行く時間になった。
「ううん、よかったらまた食べに来てよ。」
「じゃ、気が向いたら。」
そう笑い合っているけど実際話したのは一昨日が初めてでなんだかずっと前からこうして仲良しでいるような錯覚に陥った。
「…今度なんかお返ししなきゃだな。」
「え、いいよ別に。私が好きでやってるんだし!!」
「いいからありがたく貰っとけって。」
そう言われると断ることなんてできなくて渋々頷いた。
それを見た泉君は満足そうな顔で自転車をこぎ始める。
「い、泉君!」
「あー?」
「また明日、学校でね!!!」
君の傘と
ほうじ茶の味
「おー!」
泉君は振り返ることはせず、でも私に向かって手を振った。
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なんだか夫婦みたい…本人たちは無自覚ですが。
ほうじ茶は私のお気に入りのお茶です、あの渋さがたまりません…!
次はやっとこさ学校のお話が書ける…他のメンバーも出していきたいです。
ではここまで読んでくださりありがとうございました。
2009.12.30
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